「描写の技術は高い」異端者の家 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
描写の技術は高い
A24が得意とする「雰囲気先行型」の枠を超え、
鋭い批評性とエンターテイメント性を融合させた作品といえるだろう。
本作は、複雑で難解なテーマ、
信仰、存在の根源、現実と虚構の境界を扱いながら、
高度な技術力と緻密な物語設計で、
エンターテインする、
単なるホラーやスリラーではくくれない作品だ。
本作の魂は、ヒュー・グラントの圧倒的なパフォーマンスに宿る。
まるで数世紀を生き抜いたかのような神秘の存在そのものだ。
英国貴族の気品、
預言者のような超然とした威厳、
ゲームの司会者の狡猾さ、
そして、どこか親しみ深い「風変わりな隣人」
あるいはウンパルンパの奇妙さを、
グラントは絶妙なバランスで体現する。
その英国英語の響きは、
異様な存在感に深みを与え、
アメリカを舞台とする物語に異世界的な説得力をもたらす。
特に、彼のセリフ回し、
一語一語に宿る重みと軽妙さは、
観客を物語の深淵へと引きずり込む。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教といった宗教の構造や変遷を、
モノポリーの変遷に例える大胆な比喩で、
信仰の本質にも容赦なく言及する。
胡蝶の夢「現実とは何か」
という哲学的問いかけは、
観客の心を揺さぶり、
災害時の宗教的勧誘への痛烈な批判は、
社会への強烈なメッセージとして響く。
これらのテーマは、
レディオヘッドの『クリープ』が持つ内省的で、
シニカルな世界観と劇中で共鳴し、
トム・ヨークの世界観が示す現代社会への鋭い視線ともシンクロする。
(「ファイト・クラブ」の主題歌のオファーを断った後もモノポリー的進化を遂げるレディオヘッドの原点クリープを推す原理主義者リードという設定は理解できるが、
だったらOKコンピュータじゃないの、
という声は多いだろう)
それでいて、本作は単なる知的挑発に終始しない。
エクストリームな状況設定とショッキングな描写を、
緻密なシナリオと視覚的表現で昇華し、
描写の技術力で観客を物語の核心へと導く。
自転車のロック入れ込みの不穏な家や、
上下構造を用いたサスペンスフルな空間描写は、
技術そのものが物語の推進力となる。
こうした細部へのこだわりは、
観客に「見る」だけでなく「感じる」体験を提供する。
特に、ミニチュアを用いた表現は、
現実と虚構の境界を視覚的にマッピングしつつ揺さぶり、
物語のテーマを象徴的に強化する。
これらの要素は、
単なる技巧を超え、
エンターテイメントとしての純粋かつ不思議な空間に、
観客を喜びをもって誘引する。
まとめ
『異端者の家』は、
ヒュー・グラントのちからを最大限に引き出し、
難解なテーマを鮮やかな視点で解き明かす、
A24の過去作と比較しても具体的な描写での表現という意味では、
上位に食い込む作品と言えるだろう。
ホラー、スリラー、哲学的寓話、
そして社会批評、これら全てを融合させ、
高技術で観客に忘れがたい体験を約束する作品となっている。
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