ブラザーズ・グリム : 映画評論・批評
2005年11月1日更新
2005年11月3日より丸の内ルーブルほか全国松竹・東急系にてロードショー
グリム童話の森はやっぱり深くて暗い
日本にあるのは林で、ヨーロッパにあるのが森なのだそうだ。中世ヨーロッパの森は物理的に暗くて深く、人間の住む領域の外に存在する。その面積の広大さと密生する樹木の巨大さゆえに、子供が迷い込めば抜け出せず帰ってこない。村人が何かの事情で村落集団を追放されれば森に住むしかなく、彼らは人間社会の掟とは無縁となり生存のために野獣の性質を帯びていく。そうして亡霊や魔女や狼憑きが跋扈するようになった非人間世界が、中世ヨーロッパの森なのだそうだ。
これまでも処女作「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」からずっと聖杯伝説という中世モチーフを使ってきたテリー・ギリアム監督が、グリム童話の映像化に際して、この童話を育んだ暗い森を念頭に置かないはずがない。ギリアム的なお茶目で美麗な童話アイテムの影に、正面から映し出すのが憚られる暗い魔がチラリと姿を垣間見せるのはそのせいだろう。恐怖の奥の甘美さに気づく幼い少女、魔物の美しさと同じくらい邪悪さに魅せられる男、娘への愛よりも自分の欲望を優先する父親。石の柩の中の冷たい少女。その小さな足の先の硝子のスリッパ。この森は中毒性のある細部で溢れている。
(平沢薫)