「【主君に忠誠を誓っていた武将が、妖や妻の囁きにより忠誠心から下克上、更なる立身出世を求める心に変遷していく様をおどろおどろしく描いた作品。初期邦画ホラーといっても良い世界に誇る逸品でもある。】」蜘蛛巣城 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【主君に忠誠を誓っていた武将が、妖や妻の囁きにより忠誠心から下克上、更なる立身出世を求める心に変遷していく様をおどろおどろしく描いた作品。初期邦画ホラーといっても良い世界に誇る逸品でもある。】
■謀反を鎮圧した武将・鷲津武時(三船敏郎)と三木義明(千秋実)は、主君である城主都築国春(佐々木孝丸)が待つ蜘蛛巣城へ馬を走らせていた。
だが雷鳴轟く森の中で道に迷ってしまう。
そこで武時と義明は1人の老婆と出会い、不思議な予言を告げられる。
その後、2人は予言の通りに出世することになるのだが。
◆感想<Caution! 内容に触れています。>
・多くの諸先輩がこの作品に対する感想を述べているのでシンプルに示す。
・この作品で描かれる三船敏郎演じる武将・鷲津武時が主君に反旗を掲げる姿は、現代社会でも日常的に起こっている事である。
ー 父親が一代で築き上げた家具屋を、実の娘が経営方針に反旗を翻し、裁判沙汰になったケースや、老舗京都の店の様々な後継者争い・・。
普通に継いでいれば何ら問題はない筈なのに、後継者の心に生まれた”魔”が惹き起こした泥沼の争いである。-
・今作でも、忠臣であった三船敏郎演じる武将・鷲津武時が森で出会った妖や、妻浅茅(山田五十鈴)の甘言により、徐々に欲望の心に乗っ取られ、忠臣の心を失って行く様は、正にホラーである。
ー 特に、夫の立身出世を願う妻浅茅を演じた山田五十鈴の姿はとても怖い。-
■凄いと思ったのは、現代邦画では原田眞人監督位しか描けていない、馬を乗りこなす事の出来る俳優の多さとそのスケール感である。
更に言えば、武将・鷲津の心の変遷を表すような、耳障りな高音のギャーギャーと鳴く鴉の声や、台詞無き”間”のシーンの挿入タイミングの巧さである。
そして、随所で観られる躍動感溢れる馬を中心にした武将たちの姿である。
<彼の有名な、ラストの雨霰の如く降り注ぐ矢の中で、三船敏郎演じる武将・鷲津武時が全身針鼠のようになっていくシーンもホラーである。
そんな中でも、世界の三船が放つ響き渡るテノールボイスの狂気性を帯びた笑い声。
今作の様な作品を鑑賞すると、現代世界の名だたる監督に、”影響を受けた監督は誰ですか?”という問いに対し、”動は、クロサワ。静は、オズ。”と告げる多くの監督の感想が改めて良く分かるのである。>