劇場公開日 2025年7月25日

スタントマン 武替道 : 映画評論・批評

2025年7月22日更新

2025年7月25日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

スタントマンの命懸けの生身のアクションが映画原始の興奮を呼び覚ます

冒頭のアクションシーンは、刑事と悪人によるデパート内での追跡劇から始まる。乱闘による階段落ちならぬエスカレーター落ち、ガラスのショーケースの破壊、吹き抜けの2階からの落下といったシーンが続き、香港映画ファンであれば、ジャッキー・チェン監督・主演の傑作「ポリス・ストーリー 香港国際警察」(1985)のクライマックスシーンがすぐに想起されることだろう。と同時にこれが劇中での映画撮影シーンであることが明らかになるというなんとも心憎いオープニングだ。

スタントマン 武替道」は、香港のアクション映画の現場に欠かせないスタントマンたちがワンシーンに全てを懸ける姿を描いた胸アツのアクションドラマである。スタントという仕事に誇りを持ち、映画という夢に情熱を注ぐ命がけの生き様が観る者の心を打つ。

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かつて“東洋のハリウッド”と呼ばれ、ブルース・リーやジャッキー、サモ・ハンなどが活躍し、アジアのみならず世界中を魅了した香港アクション映画は1970年代から90年代にかけて最盛期を迎えた。しかし、1997年に香港がイギリスから中国へ返還されると、徐々にその勢いを失っていき、香港のカンフーやアクション映画を支えたスタントマンの多くが職を失っていったのである。

2021年には、香港アクション映画の原点と真髄を知ることができる貴重なドキュメンタリー「カンフースタントマン 龍虎武師」が日本でも公開された。スタントマンが活躍する場が減少した上に、デジタル時代に命がけのスタントマンになろうという若者は少なく、最盛期に活躍した“レジェンドスタントマン”たちが次代を担う人材を育成し、スタントマンによるアクションを受け継がせていこうとする様子に深く感銘するとともに、強い危機感を覚えた。このまま香港アクション映画は衰退の一途を辿ってしまうのか―。

しかし、その危機感と不安は、今年1月に日本でも公開されてスマッシュヒットした「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」を観て一気に吹き飛ぶ。黒社会が覇権を争う九龍城砦で男たちが繰り広げる死闘を描き、香港で大ヒットを記録した。その迫力のアクションと物語展開の面白さ、新旧の俳優たちによる競演は、最盛期の作品に引けを取らない完成度で往年の香港映画ファンを唸らせ、新しいデジタル技術も生かして若い世代にも訴求。“香港のアクション映画は死なない!”と香港映画人たちが復活への狼煙を上げた。

スタントマン 武替道」では、最盛期に活躍したアクション監督と新世代のスタントマン、人気俳優たちの間で軋轢が生じ、葛藤する様子が描かれる。1980年代は「香港のスタントマンにとって最も危険な時代」と言われ、彼らは「決して“NO”と言わない」という常軌を逸した精神だったが、デジタル時代の今はもっと効率的で、安全性が確保された上でのアクション撮影や指導が求められる。

だが、劇中の映画が完成間近となったところで、やっぱり何かが足りないことに気づく。新世代のスタントマンたちも最盛期のアクション映画を観て、憧れて育った者たちなのだ。コンプライアンス重視の時代に逆行するかもしれないが、実際の香港アクション映画界のレジェンド、トン・ワイが演じる主人公のアクション監督が家族を犠牲にしてまでアクション映画に人生を捧げた生き様に魅了されてしまうことだろう。

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」にも出演しているテレンス・ラウフィリップ・ンが若手スタントマンと人気アクション俳優役で出演しているので、あわせて観るとより一層味わい深く堪能できる作品となっている。

和田隆

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