劇場公開日 2025年2月21日

「私達日本人に、この作品に星をつける権利があるのだろうか」ノー・アザー・ランド 故郷は他にない 菊千代さんの映画レビュー(感想・評価)

私達日本人に、この作品に星をつける権利があるのだろうか

2025年3月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

正義とは、一体何?
人間が持つ、根本的な矛盾を目の当たりにする。

遠い海の向こうの事は関係無いと思ってる日本人が観るべき作品。

本年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した本作。
紛争中のガザ地区の話では無いが、この作品の舞台はガザ地区よりはまだ良いと言われている“ヨルダン川西岸地区”のドキュメンタリー。同じ“人間”がかくも非人道的な事を行なっているのかと思うと胸が張り裂ける。
そこに人権などない。
そして、海の向こうの出来事に、ほとんど触れる事も無い日本の報道機関やジャーナリズム、毎日使うスマホの情報は人々の思考にあわせた都合の良い情報ばかり。
知らぬ間に、何者かに支配されている我々に“民主主義”の“正義”を語る資格はあるのだろうか?

ヨルダン川西岸地区という通り、川の対岸はヨルダン王国。中東は「危険」という先入観があるかもしれないが、ヨルダンは比較的安全な国と言われている。外務省の渡航危険レベルでは“1”十分注意となっているが、エジプトやモロッコもレベル“1”、地域によってはより危険な地区もあり、中東の中では比較的治安は良いとされている。実際10年ほど前に映画「インディージョーンズ」でも有名なペトラ遺跡に行きたくてガイドブックを購入したが、「とても治安が良い。一般家庭に鍵が付いていない家も多く、道に迷ったらどこからともなく人が集まって、あーだこーだと教えてくれる」なんて嘘か本当かわからない様な情報が載っていた。
そんな、ヨルダンの対岸に位置するパレスチナ人の土地。
Wikipedia(適切な出典では無い)には、ユダヤ人入植地について「イスラエル入植地はアラブ人を追放する事を目的とした物ではなく、実際に行ってもいない。また、入植地はヨルダン川西岸地区の3%程度の面積である」と発表しているそうだが、そんな方便が嘘八百な事は容易に想像できる。
何故イスラエルの人々はそんな非人道的な事をするんだろう、何故?

日本人がイスラエルに“イメージ”するのは、恐らく“ユダヤ人”の国、そして“ユダヤ人”と言えば、第二次世界大戦で抑圧と虐殺をされた民族、そう思うのは私だけでは無いと思う。
しかし、この作品に登場するイスラエル兵士や入植者達の姿にはそんなイメージは結び付かない、彼らの行為は全く共感できないし、何故この様な事をするのか、理解もできない。
海の向こうにいる日本人には、まるでウクライナで非人道的なジェノサイドを行なっているロシア人兵士と同じに見える。
そして、そんな非人道的な行為を支援しているのが“アメリカ”だという事もわかっている。
何故「力による現状変更」を、日本の民主主義同盟国でもあるアメリカが支援するのか?
正義とは何なのかがわからなくなる。

日本国憲法第十四条
「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」

法治国家における“法”とは、公正で公平な社会を築く基礎であり、国民の自由と権利を守る民主主義の根幹だ。
ただ、法律にも矛盾が無い訳では無い。

人を殺す事は“悪い事”、「そんな事は当たり前」と思うだろうが、戦争で“敵”兵士を殺す事はある意味“良い事”英雄視される事だってあり得る。
昨年公開された映画「オッペンハイマー」に映し出された原子力爆弾をとってみても、日本人にとっては“悪”な存在だが、アメリカ人にとっては“善”な存在だ。

21世紀になっても、世界のどこかで殺戮が繰り返されている。「人を殺してはいけない」という“概念”は、決して人間の本能では無いのだ。

そんな、人間の中に当たり前の様にまかり通っている“矛盾”を、改めて痛感させられた。

今日ドラッグストアでチョコレートを買おうとして躊躇した。有名メーカーの手頃で美味しいチョコレート。
以前、カカオ原産国の農場で、人身売買で買われた子供がカカオ農場で働かされていることが問題になった。そして、我々が身近に享受しているささやかな喜びも、遠い目の見えないところでは全く違う真実があるのかもしれないと初めて知った。
原産国の児童労働は未だ改善されていない。
日本の有名メーカーの、子供等を笑顔にさせるお菓子、なのにそのお菓子の向こうに何があるのか、なんて考えて買う事も無いだろう。

我々には知らない事が沢山ある。目の前に見えている事が全てではない。
ただ大切なことはある。

それは、“真実を見極める”事。

断片的でもよい、常に事実を見つめそれらの行為が人類にとって正しい事なのか、正しくない事なのか。
その先にある真実とはなんなのか。
人間が“真実”とはなんなのか見つめる事を放棄した時、人間は滅びのカウントダウンを始めるかもしれない。

この95分の映像の“事実に”触れる事は、真実に辿り着くための重要な一歩かもしれない。

3月26日BBCの報道で、映画「ノー・アザー・ランド」の共同監督でパレスチナ人のハムダーン・バラールさんが、イスラエル人入植者に暴行された後に軍に連行され消息不明になっていた。と報道があった。米アカデミー賞でオスカーを掲げていたのがついこの間なのに、
ヨルダン川西岸の入植地の警察署で「恣意的に」拘束され、イスラエル兵から暴行を受けた、イスラエル人入植者たちが村を襲撃したとき、入植者たちはバラールさんの頭を「サッカーボールのように」蹴った、軍に拘束された後も目隠しをされ、イスラエルの兵士らが交代で見張りに来るたびにバラールさんを蹴ったり棒で殴ったりしたとの証言もAP通信に述べている。
日本の地上波報道機関でこのニュースに触れているニュースは聞いたことが無い。残念ながらそれが事実。

“真実”がどこにあるのか、この95分のドキュメンタリー映像を、その目で見て、確かめて欲しい。

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菊千代