劇場公開日 2025年3月14日

「幸福とは他者の不幸の上にあらず。」Flow ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5幸福とは他者の不幸の上にあらず。

2025年7月27日
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ラトビア出身のジンツ・ジルバロディス監督がこの映画に込めたのはトルストイの幸福論にあるような哲学的なテーマだ。

冒頭、主人公のネコが空腹の為に犬が捕った魚を奪おうとするシーン。これはまさに他者の犠牲により自分の幸福を願ったシーンである。

洪水と方舟はまるで神話のようなツールであるが、これは主人公への罰のようにも感じる。
船旅の中で主人公は他者との共感と理解、支え合うことで
自らの幸福が得られることを学ぶ。

同行するイワシや道中何かと手助けをしてくれるクジラはちゃんと救われる。何故救われるのか。これがこの映画のテーマであり、監督の哲学であり愛であると思う。

若干の31歳の若き監督が無料レンダリングソフトのBlenderで作り上げ、アカデミー賞やゴールデングローブ賞受賞にまで至った。これはピクサーが自社のソフトウェア RENDERMANをオープンソースとして無料公開をしたことに始まる流れで、Blenderを公開した非営利団体のBlender Foundationの創設者の「3Dアート製作を誰でも手軽に出来るように」という思いがまさにラトビアの若者に届いて3Dアニメーションが新たな次元に到達した。

ソフトウェアだけでなく3Dアニメーションの流れとして「スパイダーバース」の功績と影響も絶大だ。エンタメ作品としてあそこまで尖った表現やアメリカのコミックとしての3D表現が市場に受け入れられる土俵が出来ていたからだ。

ジンツ監督は本作の前に長編「AWAY」、そして自主制作の短編をいくつか手掛けており、短編はほぼ全てYOUTUBEの監督公式チャンネルで視聴率可能だ。

監督の技術の進歩が感じられるが、カメラワークや演出、そして根幹にある哲学は一貫している。本作「FLOW」に構成として近いのは「AQUA」だが、序章としての本命は「priorities」で間違いない。

音楽、演出、哲学、そしてカメラワーク。短編から築き上げて来た彼の世界観が本作で圧倒的な映像表として完成されている。登場人物を動物に絞ったのはとても効果的だったと思う。これを人間でやるとサバイバル映画になってしまい肝心のテーマが薄れていただろう。

「ゼルダの伝説 ブレスオズワイルド」や「ワンダと巨像」のような文明崩壊後の世界を舞台にしたオープンワールドゲームのような様相で、全編セリフなし。しかし何となくあの塔を目指すんだなといった目的地の設定や、水面の浮き沈みを使った高低差のある上下移動(水面が上がったことによりさっき行けなかったところに行ける。届かなかったアイテムに届く)などまさにゲームのようなシークエンスで面白かった。

猫があんなに海を泳げるのか?など動物にしたことで色々と気になるところもあるが、あくまでも動物達はアート作品の中の象徴的な存在ということにしておこう。

次作もとても楽しみだ。

ヘルスポーン