Flowのレビュー・感想・評価
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言葉がないからこそ体験できる初めての映画体験
オープンソースのソフトウェアでここまで見応えもあって、世界観も構築されていて、クスッと笑うところもハラハラするところもあって、時間も85分という見やすさ…お見事と言うしかない。
ハリウッドメジャー作品と比べて、毛並みとかの緻密さは無いけれど、その分動きがすごい!めちゃくちゃリアル。動物がモーションキャプチャーで演技した?もはや後半は動物が演技しているとしか思えなかった。
セリフが一切なく、動物たちだけの鳴き声しかないからこそ、どんな国の人が見ても一瞬で世界観に入り込めるんだと気付いた時、言語も宗教も文化も違うけれど、動物を見る目は万国共通なんだと感動した。海外作品を見た時の時々起こるお国柄のセリフに100%理解できない感じが起こらないってすごい。
動物に見えれば見えるほど、猫たちの冒険にハラハラして、没入してしまう。見終わった後軽く疲れたぐらい笑
水害にトラウマがある方は見るの気をつけた方が良いのと、動物たちが少しでも危険な目に合うのは耐えられない!と言う人はオススメできないけど、大丈夫そうなら初めての映画体験ができるのでとってもオススメ!
美しく暗示的なポストアポカリプス世界のネコ歩き
ギルバロディス監督の前作「Away」もこの「Flow」も、物語の前に人間の死があり、それが透明感に満ちたビジュアルの世界にある種の陰影を与えている。
「Away」の少年は黒い精霊から逃れて人里に辿り着くために、本作の猫は洪水から逃れて生きるためにそれぞれの世界を駆け抜けてゆく。旅路をゆく彼らの視界にもまた死の影が見え隠れしており、言葉のない物語に緊迫感をもたらす。
台詞のない映画だと退屈にならないか不安になりがちだが、本作についてはその心配はいらない。上に書いた緊迫感と展開の早さ、風景描写の美しさ、そして何よりも動物たちの動きの素晴らしさに、スクリーンから目が離せない。
風景に比べるとキャラクターデザインは写実性が低いが、フォルムと動きはあくまでリアルで、その加減がとてもいい。不気味の谷に引っかからず可愛らしい魅力を保ちながらも、極端なデフォルメのないキャラがリアリティある挙動をするので、NHKの「世界ネコ歩き」や「ワイルドライフ」でも見ているような感覚になる瞬間があった。生きた動物たちが厳しい自然の中で生き抜く姿を見ているかのように感情移入し、ハラハラさせられた。
特に猫を飼っている人は、あの黒猫の動きを見て「そうそう、猫はこうよ」と思う瞬間が山ほどあるはずだ。もちろんファンタジーなので、実際にはほぼあり得ない行動も出てくるが、細部のちょっとした動きのリアルさがそこに説得力を与えている。モーションキャプチャーのような実物の動きの丸写しではなく、的確に特徴を抽出したアニメーションがとても心地いい。猫の疾走する姿や毛玉を吐くところ、ワオキツネザルの日向ぼっこが個人的には特にツボだった。
各動物の鳴き声は、声優ではなく実際の動物の声だそうだ(ただしカピバラはラクダ、クジラは虎の鳴き声とのこと)。
説明がない分、物語の解釈を自由に想像できる楽しさも台詞のない作品ならではであり、まるで文字のない絵本のようだ。
最初に猫が居着いていた家には、かつて猫の飼い主であるアーティストが住んでいたのだろう。序盤で木に引っかかったボートが映っていたことから、既にこの場所は洪水に見舞われた後で、人間が誰もいないのもその天災が原因と思われる。
再び襲ってきた洪水から逃れるため、道々行き合わせた動物たちの船旅が始まる。最初は他の動物に対し身構えていた猫も、だんだん警戒を解いてゆく。
ヘビクイワシとの関係が特に印象的だ。猫を船に乗せ、怪我を負ってまで同種の仲間から守ったヘビクイワシに猫はやがて心を開き、船から飛び去った彼の後を追って高い岩を登る。
そのてっぺんで、きらめく星に彩られた天空の渦へ吸い寄せられて浮かぶ1羽と1匹。やがてヘビクイワシだけがその渦に吸い込まれ、消えてゆく。とても神秘的なシーンだ。
「Away」では、死を連想させる黒い精霊に少年が飲み込まれた時、渦に吸い込まれるような描写があった。ヘビクイワシはやはり天に召されたのだろう、という気がする。
黒い精霊も洪水も、何故それらがやってきて死をもたらすのかという説明はない。だがむしろ、現実世界で突然訪れる厄災もそんなものではないだろうか。理由がわからない、得体がしれないものに抱く恐れ。言葉で定義されないからこそ、原初的な恐怖や神秘を感じるのだ。
終盤、水が引いた大地に打ち上げられた瀕死のクジラ(ヒレの形など現実のクジラとは違うが、パンフレットにクジラと書いてあったのでそれに倣う)。かつてクジラに命を助けられた猫は、喉を鳴らして寄りそう。
ところがエンドロールの後、そのクジラが大海を悠々と泳ぐ光景が映し出される(同じ個体かは分からないが、同じと考える方が物語として私の好みだ)。世界は再び洪水に見舞われたということか。猫たちはどうなったのだろう。言葉のない物語のオープンエンディング。災禍が終わり、猫たちがたくましく生きてゆくという「お約束」は明示されない。
大地が水に満たされることは人間など陸に生きるものにとっては致命的な災難だが、クジラにとっては世界が広がること、解放だ。そこに悲劇はない、ただ自然の営みが続いてゆくだけ。
自然の大きさと圧倒的なその力、その中で生きる命の小ささと愛おしさ、あえて言葉にすればそんなイメージを、言葉になる前の感触としてこの作品から受け取った。
追記
監督が12年前に製作した短編「Aqua」に、既に本作の骨格がある。「Aqua」はYouTubeに公開されているので、興味のある方は是非ご覧ください。
Flood, flee, flow, and fly. 「2001年」にも比肩する独創的かつチャーミングな叙事詩だ
アニメーションが盛んな日本でもアメリカでもなく、映画産業があるのかどうかも一般に知られていない北欧の小国ラトビアから独創的なアニメーション映画が生まれたことは嬉しい驚きだし、アカデミーの長編アニメーション賞をはじめ多数の賞を獲得してきたことも喜ばしい。もちろん、オープンソースのアニメ制作ソフトウエアの進歩やインターネットを介した国際的な協業体制といった技術革新によって、以前なら夢のまた夢だったことが実現可能になった側面もあるだろう。
ストーリーの流れはシンプルだが、観る人の世代やバックグラウンドによってさまざまな感じ方、楽しみ方ができそう。冒険に心を躍らせ、自分と異なる誰かと仲間になる過程に感動するのもいい。「ジャングル・ブック」「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」そして「2001年宇宙の旅」といった冒険譚を思い起こす映画好きも多いだろう。
もちろん、ノアの方舟の話に代表される「人間への天罰」を読み取る人も少なからずいそうだ。言語により発展した文明が行き過ぎて人類が滅亡した、だからポストヒューマンの世界に言葉はないのだ、といった深読みもできるだろう。登場する動物キャラクターはほぼすべて実在の生物と同じ外見だが、唯一の例外としてクジラに似た巨大な生き物だけはジブリ映画や「アバター」などに出てきそうな異形のクリーチャーとなっており、「Flow」の世界における聖なる存在なのかも。エンドロールの後のポストクレジットシーンに、そんなことを思った。
もっとハラハラ感を
幸福とは他者の不幸の上にあらず。
ラトビア出身のジンツ・ジルバロディス監督がこの映画に込めたのはトルストイの幸福論にあるような哲学的なテーマだ。
冒頭、主人公のネコが空腹の為に犬が捕った魚を奪おうとするシーン。これはまさに他者の犠牲により自分の幸福を願ったシーンである。
洪水と方舟はまるで神話のようなツールであるが、これは主人公への罰のようにも感じる。
船旅の中で主人公は他者との共感と理解、支え合うことで
自らの幸福が得られることを学ぶ。
同行するイワシや道中何かと手助けをしてくれるクジラはちゃんと救われる。何故救われるのか。これがこの映画のテーマであり、監督の哲学であり愛であると思う。
若干の31歳の若き監督が無料レンダリングソフトのBlenderで作り上げ、アカデミー賞やゴールデングローブ賞受賞にまで至った。これはピクサーが自社のソフトウェア RENDERMANをオープンソースとして無料公開をしたことに始まる流れで、Blenderを公開した非営利団体のBlender Foundationの創設者の「3Dアート製作を誰でも手軽に出来るように」という思いがまさにラトビアの若者に届いて3Dアニメーションが新たな次元に到達した。
ソフトウェアだけでなく3Dアニメーションの流れとして「スパイダーバース」の功績と影響も絶大だ。エンタメ作品としてあそこまで尖った表現やアメリカのコミックとしての3D表現が市場に受け入れられる土俵が出来ていたからだ。
ジンツ監督は本作の前に長編「AWAY」、そして自主制作の短編をいくつか手掛けており、短編はほぼ全てYOUTUBEの監督公式チャンネルで視聴率可能だ。
監督の技術の進歩が感じられるが、カメラワークや演出、そして根幹にある哲学は一貫している。本作「FLOW」に構成として近いのは「AQUA」だが、序章としての本命は「priorities」で間違いない。
音楽、演出、哲学、そしてカメラワーク。短編から築き上げて来た彼の世界観が本作で圧倒的な映像表として完成されている。登場人物を動物に絞ったのはとても効果的だったと思う。これを人間でやるとサバイバル映画になってしまい肝心のテーマが薄れていただろう。
「ゼルダの伝説 ブレスオズワイルド」や「ワンダと巨像」のような文明崩壊後の世界を舞台にしたオープンワールドゲームのような様相で、全編セリフなし。しかし何となくあの塔を目指すんだなといった目的地の設定や、水面の浮き沈みを使った高低差のある上下移動(水面が上がったことによりさっき行けなかったところに行ける。届かなかったアイテムに届く)などまさにゲームのようなシークエンスで面白かった。
猫があんなに海を泳げるのか?など動物にしたことで色々と気になるところもあるが、あくまでも動物達はアート作品の中の象徴的な存在ということにしておこう。
次作もとても楽しみだ。
ユニークで神秘的な鑑賞体験
人間が登場せず、言葉も一切話されない作品。
動物だけを登場させる作品は色々あるけど、台詞まで鳴き声のみというのは珍しい。
それによって、作品の世界観や映像美にすっと没入することができ、自然との一体感を感じられる鑑賞を体験できた。
アニメーションが本当に綺麗。
綺麗と言っても、技術力が高いとか、ものすごくリアルとかではなくて、味があって美しい。
水の表現が特に美麗だった。
洪水によって人類が存在しない世界、というのは旧約聖書の創世記を連想させられるし、
言葉の存在しない動物だけの雄大な自然というものに宗教的な背景を感じ取れて、神秘的な世界でもあった。
観終わった直後は、後半のストーリー展開がよく分からないという感想だったけれど、
それが想像の余地と余韻だと分かっていくにつれて、心の中に温かく残り続ける味わい深い映画になった。
動物たちと旅をしているかのよう
猿の惑星
戦いの文化であるヨーロッパ文化の圧倒的伝統のもとにある世界は、いまや、全世界を一挙に破壊させるのではないだろうか・・・
そんなヨーロッパの片隅にある国で作られたことに驚きを隠せずにいる。
原因は不明のまま世界が水没し一匹の猫が取り残され、一隻の船にたどり着く。カピバラとオナガザルと無駄に愛嬌を振りまく犬。人間は登場せず泣き声だけで台詞はない。死後の世界のような遺跡と海原。舵を操るのは猫とカピバラ、そして鳳凰のような鳥。行き先など解らないが互いに自分の意思を伝え合い助け合う光景は訳もなく涙を誘う。言葉などは諍いの元凶と言わんばかりの表現に理屈抜きでうなずいてしまう。科学技術の進展など一瞬に崩壊し目前に広がる光景はやけくそに叫ぶことのできる大空と底の見通せぬ海。ゼロ回帰。
ほどほど、いい塩梅、そんな言葉がこの映画を観ながら頭に浮かぶ。
猫のようにしなやかに生きるのがいいとつくづく思う映画だった。
水鏡に映る君と僕。
大洪水に見舞われ自分の住まいを失った猫が流れてきた1隻の船に乗り込み始まる話。
乗り込んだ船にいた先客のカピバラに警戒しながらも、舵を取りながら水の流れに身を任せ進むが…。
行き場を失った野生動物達(猿、鳥、犬)を乗船させては警戒から始まり徐々に芽生えてく友情、動物だけに会話は無いけれど何故か主人公の黒猫ちゃんの仕草と映像、異種動物達とのやり取り、芽生えてく友情と映像に惹き込まれる。
配信鑑賞でこの評価、劇場で観てたらもっと評価上がったかも!?洪水で街、森が飲まれ、その水はやがて引き、その中をやり過ごす動物達のストーリー面白かった。
猫は猫の動き、犬は犬らしい行動、しかもレトリーバーは他の犬種ではな...
いま、世界中の映画賞である現象が起きている。
本命とされていたあの「野生の島のロズ」を打ち破って第97回アカデミー賞 長編アニメーション賞を受賞した映画。
日本の「侍タイムスリッパー」もそうだが、大手のスタジオのビッグバジェットの作品だけが日の目を浴びるわけじゃなく、寧ろそれとは対称的な小規模作品が評価されると言う現象が、世界的に昨今起こっているような気がする。
「ワンダと巨像」、「人喰いの大鷲トリコ」、「風ノ旅ビト」、「INSIDE」
これらは、「Flow」で見事アカデミー賞の最優秀長編アニメーション賞に輝いた、ギ
ンツ・ジルバロディス監督がファンのゲーム作品である。
それも納得してしまうほどの臨場感と没入感のある作品だった。
特に上空に連れ去られる、下へ落下するといった上下の空間のダイナミックな演出が素晴らしかった。
ポストクレジットにも続きがあるので見逃し注意。
監督の前作の「Away」もおすすめですよ。
澄み切った世界観
人がいなくなった地球
主人公は黒猫、突然洪水に襲われ、流れてきた小舟に乗る。
色んな動物と同舟、最初は警戒していたが、そのうち助け合うことになる。
旅は過酷で幾多の危機を迎え、なんとか生き残るが・・・。
登場するのは動物だけなので、当然、セリフはないのだが、感情が揺さぶられる。
インクルーシブ、ダイバーシティ
太古のロマンを誇示するでもなく、
生物滅亡の危機を声高に叫ぶわけでもない。
本作は、肩肘を張らない、
ある種の達観した視点で生命の営みを描き出す。
そこにあるのは、
獰猛な生存競争でも、
状況への果敢な抵抗でもなく、
ただ時の流れに身を委ね、
あるがままに生きる生命たちの姿だ。
主人公にとっての逆境は、
目の前の壁や木に、
ただ爪がかかるかどうかというささやかな試練に過ぎない。
大洪水や天変地異といった壮大な危機は、
主人公の認識する日々のステージとは異なる次元にある。
それらは地球にとっては日常の一部であり、
我々が認識するようなドラマチックな出来事としては描写されない。
それは1000年に一度、
あるいは10000年に一度の奇跡なのか、
それとも、
我々が気づかないだけで毎日繰り返されている日常なのか。
この悠久の時間軸の中で、
記録に残らない(残っているか・・)はずの生命の営みが、
確かに残っているという示唆は、
深い余韻を残す。
地球にとってすべては平常運行であるという、
壮大で哲学的な世界観が背景に提示はされている。
そして、この独特の世界観の中で、
鏡の自分や、
水面に写る自分たちが繰り返し強調される。
それは、生命が多様な姿で存在し、
それぞれが【固有の流れ】の中で、
【そのままでいい】ということを示唆しているようにも感じられる。
インクルーシブやダイバーシティといった現代的な概念とも繋がり、
個々の生命が持つ普遍的な価値を静かに問いかけてくる。
【追伸】
野生の猿が車のサイドミラーを破壊して持ち去る事件が、
頻発しています。
大洪水になった世界に迷い込んだ猫、それは想像を超えた冒険の始まりだったー。
原題
Straume
感想
ラトビア出身のクリエイター、ギンツ・ジルバロディス監督の長編2作目となる『Flow』
世界が絶賛!アニメーションの未来を切り開く新領域!
人間は全く登場せず、キャラクターは動物のみ。人間の言語は一言も用いられず動物たちの鳴き声以外にセリフはなし!
世界観と水の表現が良かったです!
1匹の猫とさまざまな動物たちの映像体験でした!
カピバラ、ワオキツネザル、ラブラドール、ヘビクイワシなど。謎のクジラも笑
猫は大好きなんですが個人的にはラブラドールが可愛すぎました!
しかもちゃんと最後までいい奴!他の犬たちやばっ…笑
もちろんカピバラとワオキツネザルにも癒されました〜笑
ヘビクイワシはなぜ天に召されたのか?笑
動物たちの習性などもちゃんと描かれてるのもよかったです。
ちょっと85分は長かったのかなって感じました。
ラスト4匹で水面を見てるの好きでした。
水が押し寄せるシーン、濁流、波や水中での揺れの描写があるので苦手な人は注意です。
※この冒険の果てにあるものはー?
観賞必須になる日も? そう思う理由は・・・
この映画の感想は人それぞれだろうが、きっと
みんな共感してくれると思うことが一つだけある
”カピバラは無害!”
主人公は山中で生きる黒猫
最近放棄されたと思われる空き家や巨大な石像があり、人間もいる世界であることは示唆されるが作中には一度も姿を現さない
ある日、黒猫の住む地域に大規模浸水が起こり
寝床にしていた空き家を放棄せざるを得なくなる
それどころか、水深はどんどん増していき猫は次第に身の置き場所を失っていく
あわや、溺れるかというところ偶然にも帆船が流れてくる
九死に一生を得た猫の前に現れたのがそう!
無害なカピバラである
警戒して威嚇する猫を気にもせず、ゴロンと横になって寝だすあたり最高に無害である
そこから船の同乗者も増え、動物だけの漂流の様子が描かれるのだがその演出力がとても高い
セリフもテロップもなく(動物達は本当に鳴き声だけ)舞台設定や物語が十分に伝わってくる作りになっている
それもシンプルで分かりやすいだけじゃないストーリーを
いつか映画制作を教える学校などで必須の観賞作品とされる日がくるんじゃないだろうか
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