トラフィックのレビュー・感想・評価
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悲哀を込めたアイロニー
TIFF2024
よくある欧州移民問題でのクライムサスペンスと思いきや、まぁ半ばそうだったんですが・・・、後半は絵画をモチーフになかなかスパイスの利いたアイロニーも同時並行に描かれていたような・・・勝手な解釈なんですけどね。
そもそもの事の起こりは実に安易で、非常に思慮に欠ける気がするのですが、絵は絵で高く売れるものという認識しかなければああいった設定や展開も納得できるし、かなり冷や冷やで笑えます。そもそもピカソとかマティスと聞けばべらぼうな値が付くんだろうなぁとすぐ思うはずという思い込みこそが安易なのかもしれません。絵画の値段が億になっているのは、作家の売値ではなく部外者が値をつり上げた結果だけであって、材料費とか労働力などから割り出される値は驚くほど安いはず。だからいって放り投げたり燃やしてしまうなんてことはできないんですがねぇ。なかなかオモロいです。やっぱ生きるためには売れない絵ではダメってことなんですねー。
東欧人による西欧人への復讐
2012年にルーマニアの小村出身のギャング少年たちが、オランダのロッテルダム美術館から絵画を盗んだという事件をベースに脚本化。
本作で特に重きを置いているのは、東欧と西欧の間にある経済格差の実態。経済事情がひっ迫する東欧を離れ、西欧で人並みな生活を望むも、満足な職を得られる移民はごくわずか。本作主人公のナティと夫ジゼルも、オランダで住居アパートも借りれない生活を余儀なくされている。
バイトしたナイトクラブでナティが暴行されたのを機に、同胞でジゼルの旧友イツァが絵画窃盗を企てるが、これは東欧人を見下す西欧人への復讐でもある。イツァもまた廃品回収を生業とし、彼の恋人も至極当然のように性ビジネスをし、さらには盗もうとしている絵画の作者が誰なのか、絵画にどれだけの価値があるのかを全く理解していないという点も、事件の哀しさに拍車をかけている。事件を捜査するオランダとルーマニア両警察の微妙な関係も興味深い。
監督の前作『母の聖戦』同様、ノー劇伴でドラマチックな演出を排除しているため、好き嫌いが分かれるとは思うが、いかにも東京国際映画祭のコンペティション向きな作品。
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