「若さのコントロール出来なさが愛おしい」I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ ふくすけさんの映画レビュー(感想・評価)
若さのコントロール出来なさが愛おしい
卒業に向けて思い出をつづる映画撮影を学校から任され、のちに奨学金を地元の大学から得ているローレンスは優秀な学生なのだろう。
しかし、教師の指示を無視し、親の経済力を無視し、ずっと動画撮影に付き合ってくれる友人(マット)を「仮」の関係と呼び、およそ理不尽の限りを尽くす。
ローレンスは妙なハイテンションで、自分には映画作成しかない、NYUへの進学以外に道はないと思い込む。
アルバイトの遅刻も、セキュリティの未施錠の末、泥棒に入られたことへの謝罪もろくに行わない。
数年前に父親が自殺しているという衝撃的な事実が明かされるが、映画はそのことを強調しない。
アラナはローレンスを解雇する際、彼の父親の自殺の語りは、同情を引くための手口と毒づく。
マットは最初ローレンスに依存していたようだが、自分自身を取り戻す過程でローレンスから離れてしまう。
ローレンスはマットが自分と疎遠になった原因をおそらく理解しながら、マットに何故と問いかけずにいられない。
あの高校生のころの、自分も世界もどうにもコントロールできないもどかしさをこれ以上に正確に写し取った青春映画を私は知らない。
そして特筆すべきは周りの大人たちの優しいまなざしだ。
大人たちはローレンスを解雇し、きっちり筋を通しながら、彼への温かいまなざしを途切れさせない。
アロナも職場の同僚たちも母もローレンスの不安定さを受け入れ突き放さない。
ローレンスは結局NYUへの進学を断念し、映画を扱うアルバイトを解雇され、卒業思い出ビデオ作製から外され、ことごとく夢の実現から疎外されているように見える。
そしてそれが、ただ現実に飲み込まれ、世間に妥協せざるを得ない若者の悲惨さに繋がらないところがこの映画の肝だ。
ローレンスの開かれた未来へのまなざしが温かい。