「大嫌いなのに、大好きな主人公。」I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
大嫌いなのに、大好きな主人公。
秋田県大館市にある東北唯一の単館常設映画館の「御成座」さんにて鑑賞いたしました。本作については全く事前知識がない状態での鑑賞です。
結論ですが、面白かった!!!
主人公のローレンスが本当に憎らしい少年でしたね。物凄い生意気であらゆる言動が鼻につき、能力は低いのにプライドだけは異常に高い。劇中何度も「なんだこいつは」とムカムカするのですが、正直思春期の自分にも思い当たる節があるので、振り上げた拳をそっと降ろす。多くの人が思春期に抱いていた、肥大した万能感と社会に対する無根拠な反抗心をじっくり煮詰めて出来上がったもの。ローレンスはそんな少年です。
愛する家族との衝突、仲の良かった友人との疎遠、バイト先の美人店長に抱く淡い恋心と決裂。様々な人生の障害にぶつかったローレンスが、それらをどのように受け止め、どのように乗り越えていく(もしくは乗り越えない)か。見る人に自己嫌悪や同族嫌悪を抱かせるようなリアルで痛い人間ドラマが、本当に素晴らしい作品でした。
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レンタルDVD全盛期の2003年カナダ。映画好き高校生であるローレンス(アイザイア・レティネン)はニューヨーク大学に進学して有名映画監督から映画について学ぶことを夢見ていた。ニューヨーク大学への進学には多額の学費が掛かることが分かり、行きつけのレンタルビデオショップでアルバイトを始める。はじめはアルバイトも楽しんでいた彼だったが、卒業や受験が間近になってくると、友人との疎遠、家族間の衝突、バイト先でのトラブルなどによって精神的に追い詰められていくことになる。
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この映画の魅力は、何といっても主人公のローレンスですね。
私も色んな映画見てますが、ここまで見ていて嫌悪感を抱く性格の主人公ってなかなかいません。生意気でプライドが高くて他人を見下して、いつも最後の一言が余計。でも、自分の思春期の頃を思い出すと自分にもちょっぴり似たところがあって、あまりローレンス悪く言うことができない。そんな感じの主人公。
映画好きの人って、多かれ少なかれローレンスのような言動しちゃうことあると思うんですよ。いわゆる「シネフィル」と呼ばれる映画オタクの人たちって、結構上から目線で映画の批評をしたり、映画に詳しくない人に対して偉そうに講釈垂れてたりするじゃないですか。まぁ、俺の事なんですけど。ローレンスを見ていると、そういう今までしてきた自分の言動を反省して、考えを改めようと思いますね。
序盤のローレンスは唯一無二の親友がいて、優しい母親がいて、バイト先の人間関係にも恵まれていて、物凄い幸せに見えます。ただ、中盤あたりから彼のその性格が災いして色んなトラブルが続けざまに起こり、ローレンスの心はダメージを負ってしまう。ただ、その経験は彼を成長させ、彼は一歩先へ進むことができる。
監督脚本のチャンドラー・レヴァックさんは本作が長編映画デビューとのこと。デビュー作でここまでクオリティの高い作品ができるとは、今後が気になる監督です。というか監督はトロント大学出身だったんですね。劇中でローレンスが監督の母校であるトロント大学を小馬鹿にした発言がありましたが、大丈夫なんでしょうか。
ローレンス本人は自らのことを不幸な身の上だと思っているっぽいですが、子供のためにプライベートを犠牲にして送り迎えをしてくれる母や、ローレンスの言動に思うところもありながらずっと仲良くしてくれた友人、ローレンスの発言や素行によって傷つけられながらも最後には彼を応援して金言を授けてくれたバイト先の店長など、正直周囲の人たちに恵まれすぎているくらいな気がします。言動にイラつくこともありながら、しかしどこか惹かれてしまうローレンスという少年の不思議な魅力が周りの人々にそうさせるのだと思います。
観客もまたローレンスの周りの人々と同じく、劇中の彼の発言にイラつきながらも最後には彼のことを好きになってしまう。本当にいい映画でした。劇中では描かれていない現在の彼について思いを馳せてしまいます。
良い映画でした。本当に。
オススメです。