劇場公開日 2024年12月27日

「What do you like?」I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5What do you like?

2025年1月3日
iPhoneアプリから投稿

まずそもそもタイトルが上手いと思った。
最初は主人公・ローレンスの属性を直接的に表しているものだと思っていたが、映画を最後まで観終わった後にこのタイトルを見ると、実は作り手の伝えたいメッセージに対応していたことがわかり、感心してしまった。

「世界は自分中心に回っている」と勘違いしている男子高校生の話。
そういう人の「みっともなさ」をリアルに容赦無く描いていて、その試みは大成功していると感じた。
でも、世の中のほとんどの人は社会に出る前の若い頃、彼のような一面を多かれ少なかれ持っていたのでは?とも思った。
「彼には共感できるところが全く無い」という人とは、仲良くできる自信が無い。
もちろんローレンスは人を下に見下しすぎているので、ここまで酷い人はなかなかいないと思うし、批判されるのは至極当然。
相手を論破するための道理に反した酷すぎる発言の数々は擁護し難い。
でも、彼のやらかしを観て「酷い」と思う一方で、身に覚えがあるような気がして、心が苦しくなる感じがあったのも事実。

この映画は「才能の残酷さ」も描かれていると思った。
大人になって思うことは、「仕事は好きなことや興味があることよりも、得意なことで選ぶべき」ということ。
好きなことは趣味にした方が人生豊かになると思う。
この映画を観ていると、「好きだけど才能が無い」ことがいかに辛いことなのか、嫌でも思い知らされる。
映画冒頭にローレンスの映像作品が出てきて、後半、将来有望な生徒の映像作品が上映される場面があることで、ローレンスの作品がどれほどしょぼかったかを映画を観てる観客が認識すると同時に、ローレンス自身が才能の有無を自覚せざるを得ない展開になっていて、この映画は容赦無いなと思った。
でも、自信があったのに圧倒的実力差を目の当たりにして夢を挫折した経験なんて、世の中のほとんどの人があるのでは?

「受験の過酷さ」も描いていると思った。
「受験」=「人生の重大な分岐点」で、「受験失敗」=「人生終了」と思い込んでいる学生は多いように感じる。
そのため、受験が近づくにつれ、自信の無い学生は不安な気持ちから情緒不安定になりがちな印象。
個人的には、受験システムは子供に負荷をかけすぎな気がする。

前半は日常が淡々と描かれていくので正直退屈に感じたが、中盤、レンタルビデオ店の女性店長・アラナが「映画を嫌いになった理由」を語る場面が名場面すぎて、そこから一気に映画に引き込まれた。
彼女が前置きで「話は長くなるけど…」と言っていたとおり、マジで話が長いなとは感じたが、話を聴き進めていくほど、自分の心拍数が上がっていくのを感じた。
彼女の話を聴いて、2023年公開映画『SHE SAID その名を暴け』を想起。
ローレンスの「なぜすぐ警察に行かなかったんだ」との問いに対する、アラナの返答が秀逸。
ヤフコメで同じような意見をよく目にするが、そういうことを書き込む人たちには理解できなそう。

レンタルビデオ店が舞台で懐かしい気がした。
友達が今までどんなビデオを借りてきたかを店員がPCで調べようとする場面で、「それは人の道に反しているのでは?」とドン引きしたが、そんなことするからバチが当たるんだよ。

縁を切りたい相手とは距離を置くのが正しい行動のように思えるが、距離を置かれた側がその事実を認識する場面はとても可哀想だった。

この映画の素晴らしいと思ったところは、ローレンスをダメ人間として描いて終了、としていないところ。
ちゃんと救いの手も差し伸べていて、利己的な人間の胸糞悪い振る舞いを永遠と観せられていたはずなのに、映画を観終わった後の気分はそんなに悪くなかった。
アラナがファミレスでするローレンスへの数々のアドバイスは、人生がうまくいっていないと感じる若者への素晴らしい金言だったと思う(非合法なものを除いて)。

おきらく
uzさんのコメント
2025年1月12日

日常を切り取っただけの『思い出ビデオ』なのに、特に光の入れ方が上手く明確な差を感じました。
撮影中のカットでローレンが「光」について言及してたのも上手い。
終盤まで常に“嫌い”寄りに振れていたのに、最後は主人公を応援したくなる着地も見事。

uz
sow_miyaさんのコメント
2025年1月11日

おきらくさん、はじめまして。
「「彼には共感できるところが全く無い」という人とは、仲良くできる自信が無い。」というところに、深く深く頷きました。
忌み嫌っていたローレンの監督した、彼自身は蚊帳の外に置かれた“思い出ビデオ”なのに、キチンとよさを認めて観ながら笑みをこぼす彼にグッときたし、I like moviesというタイトルの体現だとうれしくなりました。
いい映画でしたね。

sow_miya