劇場公開日 2025年1月17日

「空き家問題に関する問題提起が足りないものの良い映画」サンセット・サンライズ yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0空き家問題に関する問題提起が足りないものの良い映画

2025年1月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今年18本目(合計1,560本目/今月(2025年1月度)18本目)。

 他の方も書かれていますが、3.11やコロナ事情等を扱った映画は色々ありますが、その中では最も密接に描かれていたし、平成26年成立(27年施行)の通称空き家法(所有者不明土地問題も出たため、似た法律の所有者不明土地法(令和5年施行)もできました。セットで登場するのが普通だが、後者は映画内では出てこない)を扱ったところです。

 3.11やコロナ事情に関すること、またそれらがもたらしたいわゆる孤独死に関することなども一部出ますが(パチンコをやっていたら突然倒れて亡くなった等)、話題の大半は後半から空き家問題というところに来ます。これはこのような地方においては切迫した問題なのだろうと思いますが、ここは正しい描写が欲しかったです(後述)。

 また、映画がリアルの東北地方を撮影したこともあるのだろうと思いますが、意思疎通や聞き取りができないか困難になる部分があります。ここも好き嫌い分かれますが、前後関係からある程度補ってみる必要がある映画なのかな、といったところです。

 採点に関しては以下、ちょっと詳しめに書きます。

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 (減点0.4/空き家問題について問題提起が不十分)

 空き家問題は、日本では弁護士、司法書士、行政書士が担当することが普通です。この中でも映画内で登場するような「民泊への転換」という場合、行政に対する許認可を伴いますので、(個人で行うのでない限り)行政書士しかできません(弁護士はできるが、地域ののルールを把握して行うローカルルールを把握する必要があるので、ここも長年やっている行政書士のほうが早いケースが多い)。また、不動産登記の書き換えを要する場合、行政書士ではできません(司法書士。弁護士は理論的に可能だが、内容が特殊な業務なので、基本的に司法書士とのすみわけができている)。

 このように、空き家問題一つとっても実は各種士業が色々絡んでいるのですが(所有者不明土地問題も同様。不動産登記に関するので司法書士の独占業務か…と思いきや、ゴミ屋敷だったり草がぼーぼー状態の土地は「物理的には」司法書士にはどうしようもないので、結局手が付けられないことも多く、一方で不動産登記に関係しない範囲で、かつ行政と連携してこうした家のゴミ屋敷を解消するといったことは行政書士も行い得ます)、この話が出てこず。

 この問題(空き家、所有者不明土地問題)は、もともと空き家の法としては平成27年成立ですが(所有者不明土地法は令和5年と最近)、セットでどんどん片づけていきましょうという中で当事者が誰も出ないのは解釈上どうなのかな、といったところです。

 (減点0.4/(コロナ事情における)自宅待機やいわゆる「療養ホテル」の収容のもつ法的な意味の解釈が微妙)

 このこと、つまり、当時いわれていた「自主隔離」や「療養ホテル」は特に行政法上何にあたるのか?というのは当時の国会や行政法学者等でも議論になり(事実、これが直接強制か即時強制か、いずれも考えられるという話は、令和3年の行政書士試験にも出てきた)、それによって映画内で描かれるこれらについて扱いが微妙に違います。ここは学説が一つではないので、一つの説にたった立場でどう解釈するのかを明らかにしてほしかったです。

 (減点0.2/空き家の(行政の)ランク付けの処分性)

 これに処分性があるか(抗告訴訟の対象となりうるか)というのは、行政法上の特有な問題で(処分性という話は結構判例は多いが、似たような例は見つからず)、何とでも取れるような気がします(少なくともぴったり同じや類似の最高裁判例はおろか、高裁判例すら見られない)。ここも不服に思ったものがいかなる対抗手段を取りうるかという問題が変わってきますので、きちんとした解釈が欲しかったです。

 (減点0.2/心裡留保と対抗関係)

 (身分行為ではない)心裡留保は善意の第三者に対抗できません。
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yukispica