大きな玉ねぎの下でのレビュー・感想・評価
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職人たちがつむぐ、珠玉の物語
現代はパソコン、スマホ全盛。手書きをしなくなったと言いつつも、職場や家で、メモを書き残す場面は今もある。走り書きだから、字が雑だったり言葉の並びが適当だったりするけれど、受け取ると何となく捨てられない。そうやって放っておくとどこかに紛れ、ふと見返したときハッとする。単なる紙切れなのに、メモはちょっとしたタイムカプセルだ。
本作の予告を何度となく目にして、聴き慣れた曲を耳にするたび、少し気恥ずかしく、勝手に敷居を上げていた。良い曲だけれど、まっすぐ過ぎて甘すぎて、少し苦手だった記憶も邪魔をした。たまたま時間があったから、と自分に言い訳しながらの鑑賞。どうしてどうして、これはなかなか!と、暗闇の中でほくほくした。
主役のふたりを結ぶのは、メモの連なりのような引き継ぎノート。手書きの文字やマークが、彼らをつなぐカギとなる。出会いが最悪な性格正反対の男女が、少しづつ距離を縮めたところで、仲を引き裂く大事件が勃発!という、ラブコメ定石の物語運び…と思いきや。手紙で心を通わせあった、親世代のエピソードが重なり、絡まり合う。おかげでぐっと深みが増し、おのずと惹きつけられた。
過去パートは、80年代ファッション、ファンシーなレターセットに青インクで書いた手紙、ラジオから流れるヒット曲…と昭和満載ながら、あざとさは感じない。時代は様変わりしても、手紙をもらえば心は浮き立つし、さまざまなツールによるラジオへの投稿も健在だ。一見古臭く煩わしい過去が、波のようにきらめく今につながっていることを、声高にならないよう描いている点に、好感が持てた。
さらに、若い主人公たちを取り巻く大人たちが、それぞれに魅力的なところもいい。いつかこうなりたい、と思わせる。加えて、ここに繋がるのか!という幾つもの伏線も心憎い。タイトルにも繋がる伏線にもにんまり。こんもりと盛られたみかんも、実は…というのは考えすぎだろうか。
草野翔吾監督は、「アイミタガイ」に続き、心に残る素敵な作品を世に送り出してくれた。エンドロールには、脚本は高橋泉、音楽は大友吉英(敬称略)…と、なるほどと思うお名前が続々。気恥ずかしさを乗り越え、踏み出してよかったとつくづく思った。
帰り道、心は自転車!と、ざくざく歩いた。雪が解けたら、力いっぱいペダルを踏み込み、思いきり走りたい。
コテコテの人情恋愛ドラマにもちろん泣きました
神尾楓珠さん目当てで観ましたが、
もちろん桜田ひよりさんとのバランスもよく、ありきたりな学園モノ的ラブストーリーなんだろうなぁ、
と軽く観ていたら、
なんとコテコテの人情歌謡恋愛映画だった、ということ。
(ほら昔、東宝も東映も松竹も歌謡曲がヒットすると、その曲名をタイトルにした映画が創られたのはよくあったから。
でも、なぜ今、爆風スランプの『大きな玉ねぎの下
で』なのかよく分からず。
リバイバルヒットした、とか?
この映画を絶対、創らなければならない、とか?)
昔はスマホ等なく、
昭和から平成へと年号が代わる、伝達手段がまだ文通
(代筆)等の時代と現代が交差する意味は?
偶然は失然。
それは時代を代えても、偶然という必然の意味を、我々は
やはり思い知らされるのだ。
主人公(桜田ひよりさん)の役名はみゆ(美優)。
劇中「みゆ」と聞くたびにウチのワンコ(みゆ㊚)を
連想。
(ちなみにワンコみゆの当て字は「実勇」。漢字は違った。)
偶然は失然。
だと思っています。
君を好きになって
邦画のヒット・ブランドの一つ、名曲モチーフ。
『涙そうそう』『ハナミズキ』『雪の華』『糸』などいずれもヒットし、見る者の涙を流してきた。
しかし、私ゃどうも…。だってどれもベタなお涙頂戴ラブストーリー。
今年1月に公開され、やはり大ヒット&観客の涙を流した『366日』も全く同じ。年末に公開されるスピッツの名曲モチーフ『楓』もそんな匂いがぷんぷん。よく飽きもしないで次から次へと創意工夫も無い話を作るもんだ。
その『366日』と同時期に公開されたのがこちら。楽曲モチーフは爆風スランプ。
ば、爆風スランプって…。昨年40周年を迎えたとは言え、今の若い人で知ってる人いるの…? まあ『RUNNER』くらいなら聞いた事あるかもしれないけど…。
興行成績でも明暗分かれ、『366日』は25億円の大ヒットに対し、こちら1億円前後という比べものにならないほど。
『366日』はつまらなかったけど、こちらはもっとつまらないのかと思ったら、興行成績なんて当てにならない。
何だ何だ、こちらの方がずっと良かったぞ。
まあこちらも名曲が繋ぐ他愛ないラブストーリーかもしれないが、ベタで不自然ではない丁寧な語りやちょっと出来過ぎだけど巧みな構成がなかなか良かった。
大学生の丈流は友人らとの飲みの席で、偶々隣席の女性・美優と言い合いに。その時友人が倒れ、美優が応急処置を。美優は看護学生であった。駆け付けた救命士の女性は美優の処置を評価する。
丈流の母は病弱で入院中で、真面目な父とはソリが合わない。母の見舞いで訪れた病院でばったり美優と再会。美優はここで看護実習を受けている。凝りが残る2人は顔を合わす度に口喧嘩…。
偶然の巡り合わせは他にも。昼はカフェ、夜はバーの店。丈流はここの夜のバースタッフとしてバイトし、美優は昼のカフェスタッフとしてバイトしている。しかし、お互いは知らず…。
ここまで縁があれば運命の赤い糸を思うが、その糸が絡まっている。が、その糸が徐々に解れるような事が…。
バイト先には昼夜連絡ノートがある。これを通じ、交流が育まれていく。勿論、お互いそうとは知らず。夜の人、どんな人なんだろう…? 昼の人、どんな人なんだろう…? 思いが膨らむ。
なら、こっそり見に行けばいいじゃん…と思うが、そしたら話はそこで終わってしまう。令和デジタル世代にアナログな連絡ノートやり取りというのがいい。
連絡ノートでは何でも話せる。ところが直に顔を合わすと相も変わらず…。
そんな2人にも変化が。お互い、A‐riというアーティストや彼女がカバーした名曲『大きな玉ねぎの下で』のファン。それがきっかけで少しずつ交流を深めていく。
神尾楓珠と桜田ひよりがナチュラルに好演。とりわけ桜田ひよりのツンツンと可愛さが弾ける。友人のお礼と不器用に美優に食事を奢る事になった丈流。「あんたの財布空っぽになるまで食べ尽くしますから!」に私ゃズッキュン!
美優が好きなラジオ番組。A‐riもレギュラー。
美優も時々投稿し、美優の手紙とリクエスト曲『大きな玉ねぎの下で』が選ばれた。
ナビゲーターがこの曲に纏わる思い出を話す…。
昭和から平成に移り変わって間もなく。
神奈川の三浦に住む高校生の虎太郎と大樹。大樹はペンフレンドのヤンキー風の今日子に想いを寄せ、虎太郎に代筆を頼んでいた。虎太郎は代筆する内に、写真に一緒に映る地味な女の子に惹かれていた。実は…。
写真に映るヤンキー風の“今日子”は明日香。地味な女の子が本当の今日子。明日香も今日子に代筆を頼んでいた。こちらも代筆する内に、今日子は写真に一緒に映る虎太郎の事が気になっていた。
文通する内にお互い、爆風スランプの『大きな玉ねぎの下で』が好きな事を知る。ちょうど年明けに日本武道館で爆風スランプのライヴが。
虎太郎は思い切って誘う。了承する今日子。お互い、その日に本当の事を言うつもりで。武道館が玉ねぎに似ている事から、“大きな玉ねぎの下で”。
しかし…。天皇崩御でライヴは自粛。手紙で連絡しようも、時代の移り変わりで郵便局は大混雑。
ようやく連絡が取れ、6月のライヴ再開で会う約束をするが…。
今日子は病弱で長らく入院の身。体調芳しくなく、ライヴなどとても…。
名曲の中に秘められた思い出。もどかしい文通。…
懐かしく思い出すナビゲーターは一体…?
美優の投稿がきっかけで、平成初期の4人の高校生の運命も動き出す。
ナビゲーターは大樹。
虎太郎と今日子は丈流の両親。
明日香はあの時の救命士。
世間は狭いと言うか、何てご都合主義!
でもでもでも、
4人は久々に再会を果たす。その時の温かさ、微笑ましさ。
原田泰造、西田尚美、江口洋介、飯島直子がリアルに再会した旧友に見えてくる。
すれ違い続いていた虎太郎と今日子だが、ちゃんと会えて結ばれたなんて素敵…。
高校時代の虎太郎=藤原大祐と今日子=伊東蒼は応援したくなっちゃう。
この平成パート、映像も音声も当時風でノスタルジック。
令和の2人にも進展。
美優は連絡ノートの夜の人と丈流が同一人物である事に気付く。何か嬉しい。
丈流はこっそり昼の人を見に行く。カウンターに立っていた素敵な女性にときめく。
ところが丈流が見たのは美優のバイトの先輩。
この間違いが原因で、良好になっていた2人の関係に誤解と拗れが…。再びぎくしゃくムード。
そうなるという事は、お互い意識し合っている証拠。
だけど、素直になれないヤキモキ感。
じれったいけど、2人の好演もあって恋路を見届けたくなる。
クライマックスを飾るA‐riのライヴ。
“大きな玉ねぎの下で”で『大きな玉ねぎの下で』を。
平成と令和が交錯するピュアな純愛ストーリー。
ベタになりそうな所を、丁寧に紡ぐ。監督は『アイミタガイ』の人。この温かさに納得!
この手のジャンルで久々に悪くなかった。
尚、私の爆風スランプの推し曲は、『ガメラ 大怪獣空中決戦』の主題歌『神話』(レビュータイトルに引用)と猿岩石のヒッチハイク応援ソング『旅人よ』です。
平成の恋人たちが、令和の恋人たちとリンクする構成がとても良い
細部の描かれた脚本で複雑な人間の交錯が上手く構成されている
点がとても良かったです。
二つの物語、
①30年前の平成の高校生のパート。
②現在の令和のパート。
現在のパートでは、主人公は大学生の丈流(たける)。
アルバイトするバー「double」は昼はカフェで、
そこで働く女性美憂と、
互いに顔も知らずに業務連絡ノートで繋がっている。
備品の購入連絡がいつのまにか悩みや心情を書き綴る
交換ノートになって行く。
一方、
②のパートはラジオパーソナリティ大樹(江口洋介)の
思い出話の中の2人、
高校時代チャラい大樹(窪塚愛流)は、ちょっと惹かれた
顔も知らない女子高生と文通をしている。
面倒くさがりと悪筆を理由に真面目な友達の喜一に代筆をさせていた。
文通は盛り上がりある日、爆風スランプの初めての武道館ライブに、
文通の子を誘って「大きな玉ねぎの下」(武道館)で会う約束をする。
しかしその女の子は入院中で、行きたくてもドクターストップがかかっていた。
そして現在の丈流。
昼間のカフェのノートの子にどんどん惹かれて行く。
その一方で、急性アルコール中毒を起こした友達を、咄嗟に応急手当てを
してくれた看護学生の美憂(桜田ひより)と、
喧嘩友達のような関係になって行く。
気は合うのだがきつい性格でズバズバ話す美憂に気後れする丈流。
でも好きなアーティストが同じで盛り上がる事はは盛り上がる。
種明かしをしてしまえば、平成の高校生カップルが丈流の両親。
この恋はとても清潔で素敵でした。
また相手の今日子役の伊藤蒼がまたまた泣かせてくれるのです。
代筆する喜一(中川大輔)の生真面目な誠実さが、丈流れの父役・
原田泰三と重なるし、お母さん役の西田尚美と伊藤蒼は
ちょっと違うかな?
でも平成の恋、もうとても共感しました。
令和の2人で新鮮だったのは、昼間の文通相手を丈流は
もう1人のアルバイト女性と勘違いしているんですね。
その勘違いに2人は直前で気がつく点。
美憂はすっかり意気消沈してヘソを曲げてしまう。
しかし丈流は憧れの恋からリアルな恋へ変換が上手くいって、
返って「対岸の彼女」から「普段着の恋」へターンしているみたいです。
この辺が令和の恋はリアルで良かったです。
そして武道館の待ち合わせ、平成の恋人と、令和の恋人たちが、
同時進行で待ち合わせに遅れそう‼️
めっちゃハラハラしました。
終わってみればチャラい親友の大樹(江口洋介=窪塚愛流)が
恋のキューピッドでしたね。
もちろん「大きな玉ねぎの下で」をカバーしたasmiさんの声は
切なくて刺さりました。
親から子に受け継がれていくもの
アナログは熱い!
めっちゃよかった
久々にいい映画。すれ違いはあるもののやはりハッピーエンドなのがいい。演技も安心してみられて、感情移入もできた。カバーの歌もよくて、とてもいい映画だったと思います。
甘酸っぱい思い出
いい話だ🎵😌
「ただの偶然」なんて本当?人を想うことの尊さ
良作だった。
ヒット曲をベースにした映画なんて、歌詞をなぞるにせよ着想を得る形にせよ、概ねロクな作品にはならないイメージがある。だから興行成績も振るわなかったのだろうけど、見逃すのは勿体ない。
テーマは原曲の通り「人を想うこと、会いたいと想うことの尊さ切なさ」なんだけど、裏テーマとして「偶然って何なんだろう」ってこともあると思う。
レビューサイトの感想の「イマイチポイント」として「偶然が多すぎる」「その偶然を伏線回収する流れは上手いけど、やりすぎでは?」というのがあった。「そもそも物語なんてそんなもの」と割り切れる人は良いが、気になる人も出るくらいには確かに偶然が多い。主人公の2人が出逢う偶然、その周辺の人物に関する偶然。「ご都合主義作品じゃないか?」と身構える人もいるだろう。
でも、冒頭が主人公の「全ては偶然だよ。『自分の意思で選択』とか思い込み!」くらいの拗ねて斜に構えた薄っぺらな演説から始まるのに対して、作品は最後にキッチリと回答を用意してくる。その点からも製作者が「偶然だけじゃないよ。相手を想うことが何かを呼び寄せるんだ」くらいな「意思での選択」を持って「偶然」を使った物語を描いたんだろうなと思った。
映画内、令和パートと平成パートがあり、それぞれに恋愛模様が展開される。何回か行き来するので、どちらの時代か認識するのが多少難しいが、「2つのパートがある」と理解して見れば何とかなるはず。
上映は早々に終わってしまった様子。さすがに「配信サイトに新規加入してでも見て欲しい」とまでは言えないけど、使ってるサイトで配信開始したら、十分追加料金を払ってでも見る価値はあると思います。ぜひ、お勧め。
ラブストーリー豊作年に埋もれてしまいがちな心温まる良作
女優の桜田ひよりさんのお芝居が好きで、映画の公開発表があった時にやや気になっていましたが、ラブストーリー豊作の年で騒がれていたこともあり、個人的に埋もれてしまっていた作品でした。
ふと思い出して、機会があり鑑賞。
音楽には疎く、恥ずかしながらこの作品のあらすじを読んで初めて、爆風スランプさんの名曲であることを知りました。
その後映画鑑賞前にたまたま音楽番組でご披露されており、作品を観るなら先にしっかり聴いておこうという気持ちで拝見しました。
近年ヒット曲を題材にした作品が増えていますが、楽曲というのは不思議なもので、作品を観る前と後で、作品の印象がガラッと変わるんですよね。
鑑賞後の場合、歌詞が物語のあの部分を表現している、という理解が生まれていることが感情に大きな影響を与えます。
初めは気が合わないところからスタートして、いつの間にか誕生するカップルって実際にいますよね。それってちゃんと相手のことを知らないから、見た目とか仕草とか最初に会った時の印象で勝手に「好き」とか「嫌い」とかに分類しちゃってるだけで、興味関心がなく知ろうとしなければ一緒になることはないし、逆に少しでも相手を知ろうと歩み寄ればそれが良い出会いになったり。
相手を知るきっかけがあるかどうかの問題もありますし、第一印象から生理的に受け付けないってパターンも僕の経験上なくはないので一概には言えませんが、それが恋に発展するとかしないとかの問題以前に、もしかしたら知ることができたかもしれないその人の良い部分を知らずに終わってしまうのは寂しいなって、この作品を通して考えさせられました。
好きの自覚は丈流(神尾楓珠)より美優(桜田ひより)のほうが早いって認識ですが、好きだと自分でハッキリ理解した上で嬉しさを隠すことのない美優のバイト先での姿は無邪気で可愛らしいです。
桜田さんって普段ツンツン系や男前系の役柄が圧倒的に多いので、お芝居上たまーに見せるきらきらした笑顔が素敵だなと感じます。
恋する女の子は可愛いとよく言いますが、とても上手く表現されていて素晴らしいです。
そしてこれまた上手く挟んでくるすれ違い模様や、過去と現在の伏線。
丈流の両親が誰なのか、過去のあの人は誰だったのか、現在でそれを察した瞬間から、過去と現在どちらにおいても「すれ違い」がもたらす見えない何かが人の運命を大きく左右することに気付かされました。
配役面でいうと桜田ひよりさんと神尾楓珠さん以外のキャストの方々を知らないまま鑑賞にのぞんだので、個人的に嬉しいことが。
余談にはなりますが、桜田さんの作品で一番好きな作品がドラマ「神様のえこひいき」なんです。
そのメインキャストだった藤原大祐さん、窪塚愛流さんが出演されていて、今回の映画で桜田さんと直接の絡みはなかったとはいえ、御三方がまたひとつの作品に集結していることが、僕にとっては嬉しいサプライズでした。
そうそう、お芝居といえば山本美月さん。僕の中で山本美月さんはお芝居が下手な方のまま時が止まっちゃってたんですけど、自然なお芝居になっていてスッと心地よく見ることができました。
役柄も合っていたと思います。
親や親の身近な人達にとっては過去から現在の、子供にとってはこれから先の。両方の視点から心温まる友情と純愛の物語です。
得るものがたくさんあり、素敵な作品でした。
大変面白く観ました!
(完全ネタバレなので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
(レビューが遅くなりました、スミマセン‥)
結論から言うと今作の映画『大きな玉ねぎの下で』を大変面白く観ました!
私的には特に良かった場面が2つありました。
私的1つ目の良かった場面は、村越美優(桜田ひよりさん)に対して業務連絡の交換ノートで思いやりのあるやり取りをしていた相手が、実際の現実の態度では嫌な感じだった堤丈流(神尾楓珠さん)だと、村越美優が分かった後の場面です。
業務連絡の交換ノートの相手が実際は現実で嫌な感じの人物だと分かったならば、落胆したり不機嫌になったりするのが自然だとは思われます。
ところが、村越美優は、業務連絡の交換ノートの相手が堤丈流だと分かった翌日の店への出勤時に、スキップして登場し、心の深層としては、堤丈流がその相手だったことに喜んでいたと伝わりました。
この村越美優がスキップして店に出勤する場面は、現実では嫌な感じの堤丈流のその奥に、思いやりある別の側面があることを発見した喜びにも感じました。
そしてこの、その人のさらに奥には別の(良い)側面があることの発見の喜びを大切な場面として描く姿勢は、この映画を根底で貫いていたと思われるのです。
私的2つ目の良かった場面は、望月(和田正人さん)が、夜のバー店員の堤丈流を店のカウンターの酒の席で自分の会社に軽く誘い、その後、堤丈流が、母(西田尚美さん)の病気の経過もあって望月の話を鵜吞みにして望月の会社を訪ね、あっさりと就職を望月から断られる場面です。
そして、この時に望月は、大切な時間が奪われることがいかに社会人でダメかを、堤丈流にシビアに伝えます。
この場面は一見すると、(村越美優のスキップの場面とは真逆で)望月の軽口のその奥に、嫌な人間の冷淡さシビアさが垣間見えた場面にも思えます。
しかしながら、望月が自身が働く会社への堤丈流の就職を(入り口で)断った理由は、堤丈流のテンプレの履歴書に理由がありました。
もっと踏み込んで言うと、この場面は、(村越美優が気がついてスキップして喜んだ)堤丈流自身の(思いやりなどの)奥底にある本来の良さに、堤丈流自身が気がついていないのではないか?(それがテンプレ履歴書の理由ではないか?)と、望月が指摘した場面だったとも言えるのです。
そして堤丈流の本来の良さが、果たして望月の会社で発揮出来るのか?との更なる問い掛けの場面だったとも思えます。
その自身の良さの問い掛けと発見は、堤丈流自身が時間を取って行う必要があり、それを相手にゆだねるのは相手の大切な時間を奪うことになるのだ、との望月の趣旨だったと思われるのです。
つまり、村越美優が堤丈流のその奥の本来の(思いやり優しさなどの)良さに気がついてスキップして喜んだ場面と、望月が堤丈流の自身の奥にある本来の良さに気がついてないとの批判的な指摘の場面は、根底では同じ所でつながっていると思われるのです。
そして、村越美優が看護師として生きて行くと決めたからこその病院内での悩みもまた、村越美優の奥の別の人間的な側面です。
加えて、堤丈流がまだ何者かとして生きて行くと決めていないからこそ、堤丈流は本来持っている思いやり優しさが自然にあふれ、彼が村越美優の存在を根底から肯定していると、村越美優にも伝わります。
堤丈流も、行く先を決めている村越美優への敬意を持ち、自身も村越美優に続こうとの想いも伝わって来ます。
堤丈流と村越美優が自然とひかれ合うのも、深く納得する自然な流れだったと思われます。
そして今作は、堤丈流の両親の過去の文通からの結婚の話の過去編も、表の文通相手とその奥にいる実際の文通相手との、二重構造になっています。
この過去編でも、その人のさらに奥には(友人関係含めた)別の良い側面がある、人間に対する希望を一貫して描いているように思われました。
それが今作に対して多くの観客が高い評価を感じている要因だと、僭越思われました。
今作は、草野翔吾 監督の前作の映画『アイミタガイ』に引き続き「偶然」がキーワードになっているとは思われます。
そして前作に引き続きと今作も「偶然」の非現実性を超えて、しっかりとした人の深さに踏み込むことによって、観客の心の深いところに届く秀作に仕上がっていると僭越思われました。
ただここまで深く人間を描くことが可能なのであれば、「偶然」の要素が無くても同様な作品構築が出来るのではないかとも、僭越思われたりもします。
なので今後の草野翔吾 監督は、「偶然」の要素がない人間の深さを表現した作品にも挑戦して欲しいと、僭越ながら思われたりもしています。
しかしながらそんなことはさておき、今回も深さと優しさと人間に対する希望と重層性に満ちた、素晴らしさある作品だったと、大変面白く最後まで今作を観ました。
役者の皆さんも、それぞれ深さと厳しさの中にも優しさある、素晴らしい演技だったと、僭越ながら思われました。
期待していなかったけれど思ったよりも良い映画
棚は高いと取りにくい、低いと頭にご用心
3月9日(日)
割と評判が良いが「アイミタガイ」の草野翔吾監督だと知らなかった。気が付いて観ようとしたら東京の上映は終了。調べたら土・日曜のみ夜1回だけ丸の内TOEIで上映有り。日曜に駆けつける。
丸の内TOEI2で「大きな玉ねぎの下で」を。
東映本社移転・東映会館再開発のため、1960年に開館した丸の内東映は今年7月27日に閉館する。
昔は1階は東映封切館、地下は洋画ロードショー館(丸の内東映パラス)だった。
「悪魔のいけにえ」を観たのはここだったか。最近では「あまろっく」を観た。
20年前に丸の内TOEI1、2になった。
築65年、有楽町の映画館がまた消える。
閑話休題
40年前の爆風スランプの曲「大きな玉ねぎの下で」にインスパイヤされた二つの武道館コンサートのチケットをめぐるラブストーリー。
1989年1月8日(月)爆風スランプ ―1989爆風伝説― 武道館ライブチケット
日本武道館 2階南A列31番 開演18:30 ¥3,000(チケットぴあ藤沢駅前店発行)
字がきれいな虎太郎は、同じ放送部の友人大樹のペンフレンド明日香への手紙を代筆して名前と住所も自分のものを使用している。
大樹は、明日香と爆風スランプのコンサートに行くため校内放送で寄付を集め武道館コンサートのチケットをゲット、虎太郎が明日香に郵送する。
しかし、前日に天皇陛下崩御でコンサートは中止に。虎太郎は慌てて速達で中止を伝える。手紙には「必ずまた会おう。大きな玉ねぎの下で」と書いた。速達がちゃんと明日香に届いて伝わったたかが分からない。
虎太郎はチケットを手に武道館に向かうが、実は明日香名義で虎太郎と文通していたのは今日子だった。
虎太郎は武道館前で明日香を待つのだが…。
―35年後―
2024年3月1日(金)
A-riスペシャルライブ武道館!チケット
日本武道館 2階スタンド 南A列30番 開演19:00 ¥7,700
大学4年の丈流は友人喜一の就職内定祝をするが、丈流の就職はまだ決まっていない。喜一は店で倒れてしまう。隣席にいた看護師見習いの美優の適切な応急処置で喜一は助かる。
丈流は、昼はスイーツの店、夜はバーになる「Double」でバイトをしているが、共用品や忘れ物等の昼の店との連絡帳で顔の見えない相手との交換日記のような連絡が始まる。
母が入院している病院で美優と会うがぶつかってばかりで折合いが悪い。
喜一の計らいで美優と食事をする事になり、その後行った中野サンプラザ近くの飲み屋で好きなシンガーがA-riで共通している事が判りちょっと仲良くなる。
昼の「Double」の近くを通りかかった丈流が店を覗くと昼のスイーツ店をやっている紗希の姿を見かけ、連絡帳の相手は紗希だと思う。喜一のお節介で女性の名前がサキ、既婚でない事が判る。連絡帳でお互いがA-riのファンだと判った丈流は武道館コンサートのチケットに当選し、1枚を連絡帳に挟んでサキに贈る。しかし、チケットを受け取ったのはサキではなかった。
受け取った相手が誰かを知った丈流はチケットを手に武道館前で相手が来るのを待つのだが・・。
40年前の曲を基に、二つの武道館コンサートのチケットにまつわる話を上手くまとめて、しかも35年を跨いでその話が見事にクロスしているのが絶妙で素晴らしい。
「アイミタガイ」でもそうだったが、人と人との繋がりが何処かでまた別の人と繋がっている。丈流の父と母と美優、DJ、救命救急士、おっと喜一もか。自転車もだな。
店の名前がダブルって言うのもね。
後で予告編等の映像を確認したら、35年を跨いだ武道館のチケットは同じ席だった。
2階南A列、女性が30番(丈流がサキに送ったチケット)、男性が31番(武道館前で虎太郎が手にしていたチケット)。
ツッコミどころとしては、大樹は35年後に文通していた明日香の住所が判るのに、友人の丈流の住所は知らんのかい。
鎌倉から武道館は遠いぞ。チケットを取りに行ってそれから武道館へ、それも自転車?
丈流の就職は一体どうなった?
私が武道館のコンサートに行ったのはABBA、加山雄三、ジョン・デンバー、キース・ジャレットかな。あとはプロレスだ。
おまけ
私の前列右側で観ていたのはサンプラザ中野くんのようだった。声はかけなかったが、あの頭で真っ赤な服を着ていた(サングラスはしてなかった)。いくら銀座でも芸能人でなきゃ真っ赤な服着て映画観に来ないよ。
歌の力
突っ込みドコロは満載。特に設定や展開はあざとさが目立つ。
だけど、嫌いになれないのは、愛のある映画だ。
過去と現在の絡み合い方が心地良い。
そして、何よりも歌の力を思い知らされる映画でした。爆風スランプのタイトル曲と「Runner」。この2曲に持っていかれる。歌の力、それだけでも価値がある映画なのでは。
あと、伊東蒼さん、今回も一番印象に残ったなぁ。相変わらずスゴい。
#大きな玉ねぎの下で #爆風スランプ
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