「好きな人と暮らす」ファーストキス 1ST KISS U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
好きな人と暮らす
物語が好きだ。
松たかこさんが可愛い。
台詞が素敵だった。
タイムリープものでファンタジーなのだけれど、ファンタジーだけではない。
生々しい台詞がいくつもあるし、スタート時は離婚する直前だったりするし、緩やかに崩壊していく夫婦生活の経緯を丁寧に描いていたりもする。
なのだが、タイムリープする動機は彼を死なせたくないからである。
そういうものなのだと思う。
死んでいてほしくはない。
カンナさんは奮闘する。
何度もタイムリープし、彼と出会った日を繰り返す。彼は彼でカンナに「運命の赤い糸」を感じてたようだ。何度会っても一目で恋に落ちる。
本来は20代のカンナであるが、目の前にいるのは45歳のカンナだ。それでも恋に落ちる!
実際、チャーミングだし、彼は極端に女性に奥手のようだし。20数年生きてきて初めて感じたトキメキなのであろう。…その割には積極的な部分もあるが。
彼が死なないように、運命を改変していくカンナだが、望むような結果は得られずで、遂には正体がバレる。15年後から来たあなたの妻だと。
その時下した彼の決断に、感動しない女性は居ないんじゃなかろうかと思う。
私と結婚しない未来を選んでと言うカンナに、彼は嫌だと言う。
「今のカンナさんに出会ったら、15年後のあなたに会えるんだね。たとえ死ぬ事が避けられない運命であっても、15年後の君と出会える選択をする。」とかなんとか。
20代の私ではなく、今の私に会いたいという彼。
…痺れるだろ。
松村北斗氏の好感度は爆上がりだと思われる。
この時、彼は始まってもいない結婚生活をやり直したいと告げる。かなり強引なぶっ込み方だが、不思議と違和感を覚えない。
そしてカンナはそれを受け入れるのだ。
恐れ入る。
女性の懐の深さに太刀打ちできないなぁと思う。
コレ以前の2人は朝起きても「おはよう」の言葉すら交わさない。コレ以上ないって程冷め切ってるのだ。
でも、男性が謝罪し反省を示せば許してくれるのだ。立場が逆なら出来るだろうかと思う。
家庭というコミュニティを守る。もしくは愛情のなせる技なのか。その内情は分からないのだけれど、水に流してくれるのだ。別れ際には「これから会う20代の自分に嫉妬しちゃう」なんて事まで言う。
…なんていじらしい生き物なんだ!
どこで見落としていたのだろうか…?
現代に帰った彼女のその後は描かれず、代わりに15年後のカンナと出会った後の彼が描かれる。
カンナが彼にとっての運命であったように、彼も死という運命からは逃れられなかった。
彼がカンナに残した手紙はとても温かく…カンナへの愛情に溢れていた。
「恋愛は相手の好きな所を探すけど、結婚は相手の嫌いな所を探す事なの」
「お互いが教習所の教官になっちゃうの」
辛辣な結婚観だがカンナが彼と過ごした15年を総括した言葉で、彼はこの言葉を忘れなかったのだと思う。
この15年、彼はカンナの愛しいところだけを見失わずに過ごしていたように思う。
コタツで寝て顔に出来た絨毯の後が可愛いとか…ホントに日常の些細な事だ。
その些細な事が降り積もり好きにも嫌いにもなるのだろうと思う。
男性が愛情を示し続ければ、いつまでも妻と恋愛できるのだろうか…かつて大好きだった女性が妻なのは間違いない。
そう、なんかずっと「大好きだった人」が根底にあるような物語だった。後味の悪くない熟年のラブロマンスといったところだろうか?夫婦である全ての人は見た方がいいんじゃなかろうかと思う。
おそらく、現代に帰ったカンナは覆らなかった死という運命が待っているのだろうと思う。
どんな変化が起こっていたのかは分からないが、いっぱい泣いて偲んで、立ち直ってくれればいいと思う。そう思えば後半はパラレルワールドでもあったのだろうと思う。
作風は終始コメディタッチで進んでとても見やすい。そのくせ台詞が案外ダークで軽妙な掛け合いや口調と相まってアクセントとして効いていて、惹きつけられる。
そしてアレはディープフェイクの技術なんだろうか、若かりし頃の松たか子に会える。とても自然な感じに頭がクラクラするのだけれど、この重ねた月日と移り変わる心情を表すにはコレ以上はないって演出だった。作品的にも何だかじわーっと染み渡る。
さすがと思うのは、松さんのアップカットだ。
冒頭から松さんは映る。どんな状況でどんな性格でといわゆる紹介カットなわけで、このまま流れていくのかなと思いきや、それを堰き止めたのが最初のアップカットだった。
冷蔵庫によりかかり、生気のない目をしている。
「ここでか」と唸った。
今まで見てたのは強がったカンナの姿だったんだなと。そして、その事に本人も無自覚でこの表情が本音のカンナなんだと思った。
その顔を見て「大丈夫か?」と問いかける人はもう居ないのだ。
坂本裕二脚本の恋愛物語とは相性いいらしく大好きだ。塚原監督の切り取り方も視点も、さっぱりしてて今作も深いテーマでありながらもスッと見れた。
◾️追記
とある人のレビューに「靴下」のくだりがあった。
なるほど、そういう事かと納得する。
「恋愛感情と靴下の片方は無くなるものだ」カンナの台詞だ。なのだが、彼女は彼の靴下を片方無くす事もなく履いている。ずっと好きだったんだなぁと思う。表面的には全く出さないけれど、ずっとずっと好きだったんだなぁって。
カンナの懸命さに得心がいった。
むしろ、今まで感じてた事がこの「靴下」のピースがハマった事で彩りが濃くなったような感じだ。
そして、そんな深く尊い情愛をライトにスッキリ見せ切った松たか子さんと塚原監督に脱帽である。
もうホント、ぐうの音も出ない。改心します…。
U-3153さま
手紙とカレンダーの解釈、ありがとうございました🐣🐤🐥
「カレンダー」をめくる行為は“止まっていた時間をカンナ自ら動かす”というメタファー、そしてその時が来たら駈の「手紙」がカンナの背中を押す…
このピースで私のレビューも心の中で完成しました。「靴下」のレビューを削除して上書き更新したいくらいです。
シナリオブックを買ったのに、「6月のカレンダーに手紙」はト書きだけで説明が無いから分からなかった、というクレームレビューを見かけました。
『アンナチュラル』というドラマで脚本の野木亜紀子さんが、「塚原監督は“大切な人が遺してくれたもの”の演出が素晴らしい」と、絶賛されていたのを思い出しました。
たぶんきっとそう言う事なのでしょうね。
例えば脚本に「花を買って帰る」というト書きがあったとして「いや、花より鉢植えの方が駈の希望が表されてるんじゃないか?」そんな演出側の配慮を感じてしまいます。「気づいてもらえないかもしれないけど、絶対花よりは鉢植えのはず」ひなさんのレビューをもし監督が読んだなら小さくガッツポーズするのではと楽しくなっちゃいます♪
U-3153さま
コメントバックありがとうございました(*^-')b
ここのレビューはまだ一桁のビギナーなので、褒められて調子に乗ってもう1回コメントさせてください。
細部の演出やディテールが印象に残る映画が、私の★5なのかなと気付きました。
でもこの作品で靴下だけじゃなく鉢植えにロックオンするのは、かなりレアだと思ってます。
駈が部屋の6月のカレンダーをめくらずに、カンナ宛の手紙をそこに隠した理由を考えてます。
カンナが「7月10日」を過ぎて少し落ち着いた頃に見つけて欲しかったのか、駈が「7月10日」に帰宅する=手紙を見せなくていい可能性を信じたかったのか…
感受性よりコナンくんの推理みたいですね。
時々起こる現象なんですけど、フォローバックしていただいたのに外れてしまいました。
U-3153さんのレビューは、時間と気持ちの余裕のある時にたくさん読ませてください。
U-3153さま
コメントありがとうございました。
U-3153さんの【追記】は上手過ぎます😊
私ももっと【追記】したい話が2つあるんです。
最後のタイムトラベルで、もし2人が結ばれなかったら、カンナは駈の「靴下」を履けるのはこれが最後だと思って借りパクをしたんですよね。
そして駈がカンナの「靴下」に気付いた後の次の台詞が、突然のプロポーズだったんです。
最初の「7月10日」では、枯れている鉢植えをカンナは放置してます。やり直した「7月10日」では、駈が自分1人のコロッケではなく、2人の家に置く鉢植えをお花屋さんで選んでます。
「7月10日」に“もし”自分の目の前で事故が起きたら、反射的に助けると考えていたとしても、駈はきっと帰るつもりで家を出たんですよね…
U-3153さま、初めまして。
4作品に共感とフォローバック、ありがとうございました。
レビューの表現力に圧倒されつつ、「松村北斗氏の好感度は爆上がり」「かなり強引なぶっこみ方」界隈は笑ってしまいました。
『ルックバック』から何作かで気付いたレビューのシンプルなタイトル、短い言葉は長文より難しいと思っているのでセンス良いなと思いました。
(※コメントが反映しないエラーが起きていて、何度も投稿し直しました)
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