「夫の決断は感動的だが、終盤の「入れ替わり」には疑問が残る」ファーストキス 1ST KISS tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
夫の決断は感動的だが、終盤の「入れ替わり」には疑問が残る
主人公が、何度も何度も、同じ日の、同じ時刻にタイムスリップして、限られた時間を繰り返しながら、目的を達成しようと奮闘する姿には、「恋はデジャ・ブ」のビル・マーレイを彷彿とさせる面白さがある。
特に、松たか子のコメディエンヌぶりには、思わず吹き出してしまいそうな楽しさがあり、彼女の魅力を再確認することができた。
ただし、離婚を決意するほど、夫に対する愛情を失っていたのに、どうして彼女が、そうまでして彼の死亡事故を阻止しようとしているのかがよく分からない。
いくら嫌いになっても、死んでほしいとまでは思わなかったということなのかもしれないが、それにしても、彼女の執念には、単に「死んでほしくない」という気持ちだけでなく、何としてでも「生き延びてほしい」という強い願望が感じられるのである。
おそらく、彼女は、夫に生き延びてもらった上で、結婚生活をやり直したかったのではないだろうか?
もしかしたら、初期のタイムスリップ時には、夫を生き延びさせたいという気持ちはなく、何度もタイムスリップするうちに、彼に対する愛情が蘇って、そのような思いが募っていったのではないだろうか?
考えてみれば、タイムスリップする先が、2人が出逢う直前の時期と場所だということも、ご都合主義ながらも絶妙で、どんなに冷え切った関係の夫婦でも、こんな状況になったら、再び恋に落ちるに違いないという説得力がある。
もともと、お互いに好きになり、惹かれ合って結婚したのだし、心が離れてしまった理由も、些細なことの積み重ねで、決して憎しみ合っていた訳ではないのである。
そんな、夫婦のすれ違いのエピソードは、身につまされるものばかりで、「離婚の危機に直面した夫婦は、結婚当初の気持ちを思い出すといい」という、「ローズ家の戦争」のダニー・デビートの名言が、改めて心に響いてきた。
やがて、タイムスリップした妻が、若き日の夫にすべてを打ち明けたところで、この物語は、どういう結末に着地するのだろうかと思っていると、未来を知っていながら、それを秘密にしているという登場人物の主観が、妻から夫に入れ替わるという展開になって驚かされた。
確かに、例え自分が死ぬことになろうとも、本当に愛する女性と出逢って結婚するという人生を選んだ夫の決断には心を揺り動かされるし、結婚後も円満な夫婦生活を送る2人の様子にも、胸が熱くなる。
ただ、その一方で、あれだけ何度もタイムスリップして、未来を変えようと努力した妻なのに、そうした努力が、別の形で実を結んだということを知らないまま、エンディングを迎えるということには、物足りなさを感じざるを得なかった。
ここは、やはり、主観を変えないで、現代に戻って来た妻が、夫の遺した手紙を読んで、2人の15年間の結婚生活が、(自分自身は経験できなかったものの)円満で幸せに満ちたものに変わっていたことを知る…という結末にした方が良かったのではないかと思えてならない。
それから、テレビで流ているCMでは、夫の手紙のことを暴露してしまっているが、これでは、夫が運命を受け入れたことを予想できてしまうので、宣伝のやり方としては大失敗だと思う。
すごくうなづける感想文でした!
やはり「元の」カンナに、幸せを味わっていなくともちゃんと変われた、彼もしあわせであったということを噛み締めて欲しかったです。
やはり、彼女には、「努力が報われた」ということを、はっきりと認識してもらいたかったですよね。
このエンディングだと、幸せな結婚生活は、別の時間軸のパラレルワールドの出来事で、もともとの主人公の時間軸の出来事ではなかったとも解釈できてしまうと思います。
最終盤で主人公が入れ替わるような展開で、やはりスッキリしませんよね。
それまで見てきた彼女はどうなったのか、と。
餃子のエピソード(着払い→元払い)をやりたかったのでしょうか…