「完全にプロセカファン向け」劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク 映画読みさんの映画レビュー(感想・評価)
完全にプロセカファン向け
初音ミクは2007年8月のデビュー時からの付き合いです。
その頃、もろニコニコ動画に新時代の可能性を感じる学生で、貼り付いていました。
これぞ0年代のラストに自然発生的に生まれた我々の文化、ダイナミズム、誇り…
というわけで、「初音ミク初の映画化」という触れ込みだったので楽しみに見に行きましたが、かなり思っていたものと違っていました。
本作は「初音ミクやボーカロイドが好きな人向け」の要素は非常に薄く、「アプリゲーム『プロジェクトセカイ』の、アイドル的バンド的なキャラクターたちが好きな人向け」の要素が非常に強い作品です。
プロセカなんのこっちゃな人にはかなり辛い、プロセカも初音ミクもなんのこっちゃの人には滅茶苦茶辛い、そんな感じ。
「現役プロセカファンだけが喜ぶプロセカファンのためのファンムービー」が企画の第一義であり、「人生のどこかで初音ミクやボーカロイドにお世話になった」程度の人はほぼまったくターゲットレンジに入っていません。
2023年の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のような「ちょっと知ってる程度の人でもOK、誰が見ても面白い」では作られていません。内容的にも、文化的にも。『THE FIRST SLAM DUNK』と比べても、遙かに原作知識を前提とした作品に思います。
その点は、足を運ばれる前に、特に同行者を誘う場合には考慮に入れた方がいいと思います。
また、本編時間はデータ上105分となっていますが、実際には上映前アナウンス・アフターライブ前と後のアナウンス等含めて、完全終了まで135分かかりますので注意した方がいいです。(初週のみミクの舞台挨拶があるが、それが無くても130分パッケージ)
前述の通り「ゲームのあのキャラやあのキャラが、アニメで動いていること」を楽しむファンムービーなので、ストーリーはあってないようなものです。まず全ユニットの歌唱がノルマにあり、それを達成するために小学校の15分の学芸会台本的なド王道で行きます。なので本筋は超が付くほどわかりやすいのですが、各ユニットやゲームオリジナル設定の「セカイ」&ボカロたちの立ち位置などの説明は一切省くので、原作を知らない人にはかなりのわかりにくさがあると思います。
プロセカで活躍する5つもの平行世界の音楽ユニットたちをそれぞれ見せないといけないので、場面転換が非常に多く、テンポはぶつ切り感高め。終盤はたっぷり音楽と映像を楽しめますが、そこに至るまではかなり長く感じます。話自体に意外性がないのと、物語自体がなかなか侵攻しないのが原因かな。
以下ちょっとズレたツッコミ。
終盤のライブシーンはすごいなと思いつつも、歌というよりダンス全力なのがどうも最古参ミクファンとしてはピンとこなかったりします。ミク文化が一切踊ってなかった頃からのファンで、ミクが踊り出してそれどうなん?とか思い始めた原理主義者なので。
そして、本作の内部テーマである「あきらめるな、くじけるな、自分らしく行け」的な5バンドのメッセージエールですが、同方向性であえてダンス作画を無くしてバンド演奏シーンとして勝負した『ぼっち・ざ・ろっく』(劇場総集編)なる作品があってしまい、そちらの方が歌としても心に響く演出としても上手いなと感じてしまいました。本作の5バンドは皆すでに仲間もいて実力もあっての成功者たちで、「他人の辛さを想像して、歌ってみた」ぐらいのエールなので。ぼざろのぼっちちゃんの、本当に這い上がってきた過程を描きながらの迫真性とはちょっと遠かったかな。そしてあっちは単体で原作まったく知らなくても誰でも楽しめてしまうので…
あとこれは私が歳を取っただけにも思いますが、作中の普通の高校生ガールズバンド2組がどちらもアイドル路線(坂系とシャニマスMV系)なのはちょっと目と耳に馴染みにくかったです。その衣装どっから出てきた!?とか、そもそもの彼女たちの心が歌ではなくアイドルダンスやMV映え全力というか。今ってそんな感じなのかな。いやそんなわけねえだろ。やっぱり、『ぼざろ』とか『ふつうの軽音部』みたいなテンションの方が嬉しいな。もちろん、本作の世界観だからと言われればそうですが、やっぱりそれを受け入れるのには一つハードルが生じていると思います。ラブライブはスクールアイドル同好会、アイマスはアイドル事務所、とセットアップして初めて坂的な「みんな一緒のダンス歌唱」は可能になるわけで。
ミクたちの喋りがあえてボカロベタ打ちなのも、コンセプトにこだわってちょっと特異な領域まで行ってしまっている感じ。ボカロ1年目からのファンでも、カイトでうろたんだーとか歌ってた私でもそれは別に嬉しくなかった。カイトがベタ打ちでしゃべるととてもきつい。
上映後のアフターライブも、等身大で実在性を出したかったのはわかるけど、本編のクライマックスですごいアニメ絵ライブを見せられた後なので見栄えは悪く、ちょっとどう反応したものかという具合。そしてなぜミク+あまり目立っていなかった1ユニットなのだろう……と思ったら、なんとアフターライブの2組や各アナウンスは週替わりなんですね。でもとなると2週目以降はミク&他ボーカロイドたちののアフターライブは無いわけで……なんかどうあがいても半端な感じ。
上映前アナウンス、アフターライブ前アナウンス・後アナウンスも、正直体験としてのテンポ感は大きく損なっていたと思います。要所要所でラグが発生する、もどかしいゲームを遊んでいる感じ。これまで週替わりで変わるとされてもなぁ…。映画って、入って座って見るだけで、シームレスに100%を与えてくれるお手軽さがすごい魅力だと思います。
欲張った企画構成が、オールインワンパッケージの強みを失ってしまっている感じ。
総じて、全体的に作り手側がコンセプトをノリノリで通して、しかし細部の詰めまで手が回らなかったのかな…という印象にとどまります。
できれば、映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』みたいな、前提知識ほぼ無しで誰でも物語を追うだけでキャラを理解し大満足に楽しめる、普遍性の高い物語作品であってほしかったな。
とにもかくにも、現役でプロセカが大好きな人向け。見に行くなら、プロセカ好きで集まって見に行けば楽しいと思います。
>uzさん
コメントありがとうございます。
その点も追記させていただきました。自分もまさか2時間15分とは思っておらず驚きましたが、惜しみながら途中抜けする人がそこそこいました。たぶん、105分だと思って見に来ていた方々かなと思います。
5ユニットの面々は本作でミクを救うヒーローの立場ですので、初登場時はユニット名+演奏シーンなどで大見得切って登場するなりした方がよかったと思いますね。「すでに全てを知っている」前提で、いきなり彼ら彼女らのだらだらした日常シーンから入る設計はさすがにハードルが高いと感じました。不発に終わってしまった初代艦これアニメが「授業参観」と呼ばれたのを思い出したというか。
劇場のスケジュールを見て2時間超えと認識していたのですが、前説やらアフターライブで大分尺を取ってました。
(本サイトでも、自分が観た時点では本編時間の表記がなかった)
あの尺を設定やキャラクターの紹介に充てていれば、もう少し楽しめる作品になっていたのかな…
それでも、やはりキャラ数は絞るべきだと思いますが。