ボビー : 特集
エミリオ・エステベス監督 Q&A
──60年代をとらえるのは難しくなかったですか?
「正しく描写したいものは、必死になって努力するものさ。68年は世界が大きく揺れた年だった。ジャーナリストがベトナムには勝てないと言いはじめ、キング牧師が暗殺され、ジョンソンが再選に出ないと宣言。ボビーが暗殺され、パリでは暴動があった。世界がひっくり返っていた。そんな時代を正しく表現したかったので、僕は美術監督や衣装デザイナー、撮影監督に大きく頼ることになった。彼らは最高に才能のある人たちだ。だが予算には限界があった。550万ドルの予算で始めたからね。何をやるにも困難な金額だった。僕は大きなビジョンをもつ映画をつくるつもりだったから、撮影監督に(両手で大きな四角を作って)“こういうのをやりたい”と言うと“無理だね”。(小さめの四角を作って)“これくらい?”と訊くと“まだダメ”。(かなり小さい四角を作って)“じゃ、これくらい?”と訊くと“ああ、ありえるね”と(爆笑)。キャストがこんなにビッグで、ストーリーもビッグなんだから、ビッグなキャンバスに描きたかったんだ。僕らは足りない金をイマジネーションで補う必要があった」
──副料理長役のローレンス・フィッシュバーンとは深くて長い仲だそうですね。
「14歳の時から知っている(注:彼の父マーティン・シーンと『地獄の黙示録』で共演したフィッシュバーンは、エミリオと親友同士に)。父が彼に圧力を加えたようだ(笑)。彼が登場するキッチンの場面は、もっとも政治的なシーンだといっていい。ローレンスの副料理長がメキシコからきた2人の青年に、白人社会の中でどう生き抜くかを諭している。ボビーは、あのキッチンで皿洗いしていた、力をもたない人々のために手を差しのべようとした最初の政治家だ。ボビーは“あの場にいた”んだ。なぜならば、彼の声はキッチンにいる人々、有色人種の人々たちに反映されていたのだから」
──これは反戦映画ですか?
「これは、プロライフ、プロピープル(注:人々の人生に賛同を贈る)映画だ」
──政治についてはどうですか?
「当然選挙には行くよ。じゃないと、父が許してくれないからね(笑)。この映画を見た若い方がボビーを通じて、政治をシック(おしゃれ)なものと考えてくれればうれしい。 シュワルツェネッガー州知事にはひと言あるんだ。この映画はもともと、ある不満から生まれたんだ。僕らはロサンゼルスに住んでいる。でも00年頃から映画のプロダクションはカナダ、ニュージーランド、オーストラリアへ逃げ出してばかり。僕の友人の映画技術者たちは本気で他のキャリアを探している。それで“映画の撮影をロサンゼルスにとどめるために、可能はことは何?”と考え、アンバサダーホテルを思いついた。このロケ地をカナダに移すことは不可能なんだ(笑)。
そうした不満から『ボビー』が生まれた。シュワルツェネッガー州知事が、現在ルイジアナ州で行っているような製作者たちへの優遇税制を法案として通してくれることを期待している。僕ら映画人の多くはこのロサンゼルスに住んでいる。映画の都で製作が行われないというのは、おかしなことだと思う」