破墓 パミョ : 映画評論・批評
2024年10月15日更新
2024年10月18日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
風水、祈祷、葬儀の風習やウンチクを満載し、破格のスリルを呼ぶ“墓”ホラー
近年ホラー映画が盛んに作られている韓国で異彩を放つフィルムメーカーがいる。「プリースト 悪魔を葬る者」「サバハ」のチャン・ジェヒョン監督だ。前者はカトリックの悪魔祓い、後者は仏教の流れをくむ新興宗教を題材にした恐怖劇なのだが、どちらも宗教の歴史と風習、その功罪に言及した内容は、観る者を置き去りにしかねないほどマニアック。しかも、それを具現化した美術や小道具などの映像面のディテールの凝りようが凄まじい。また、チャン監督はドラマやキャラクター描写も疎かにしないストーリーテラーであり、ホラー&ミステリーにタイムパラドックスの要素を融合させたトリッキーな衝撃作「時間回廊の殺人」の脚本家でもある。
そんな注目すべき気鋭監督が本国で大ヒットを飛ばした新作「破墓 パミョ」は、期待に違わぬユニークな着想で、なおかつ娯楽性にも富んだサスペンス・ホラーだ。身内に不幸が相次ぐ大富豪一族からの依頼を受け、彼らの先祖の墓を調査することになった風水師、葬儀師、巫堂(ムーダン)とその弟子の4人チームが、その墓に封印されていた恐ろしい何かを掘り起こしてしまうという物語である。
4人が向かった墓は江原道の人里離れた山岳地帯にあり、キツネがうろつく山頂付近に名前のない小さな墓石がぽつんと打ち立てられている。その異様な光景を映し出す導入部からして“何かよからぬことが起こる”不吉なムード満点なのだが、そこにエキゾチックな祈祷の儀式シーンを織り交ぜた映像世界に引き込まれずにいられない。風水師役にチェ・ミンシク、葬儀師役にユ・ヘジン、巫堂役にキム・ゴウンを配したベテランと若手の混合キャストも魅力的。それぞれの分野のプロフェッショナルになりきった彼らの迫真の演技と、陰陽思想などのウンチクを盛り込んだ脚本が、映画の不穏な濃度と虚構のリアリティーを高めている。
プロットのひねりにも驚かされる。主人公たちが関わった怪事件は、中盤の第3章「霊魂」でいったん解決を見るのだが、続く第4章「祟り」で予想だにしない新たな事態が勃発する。問題の墓から解き放たれるのは、私たちが思い描くありきたりな悪霊ではなく、奇想天外なまでにとてつもない魔物だったのだ! 日本人ならなおさらギョッとするであろうその正体は見てのお楽しみだが、まがまがしい風貌もサイズもこちらの想像をはるかに超えた魔物が、ついにスクリーンに姿を現すシークエンスが凄い。経験豊富な風水師も巫堂もたちまち無力化されるこの場面を目の当たりにした筆者は呆然とし、その先の展開が一切予測不能の状態に陥った。東洋的オカルティズムの外連味もたっぷりのコリアン“墓”ホラー、尋常ならざる見応えである。
(高橋諭治)