「石井裕也作品は面白いけど苦手で好きになれない」本心 よしてさんの映画レビュー(感想・評価)
石井裕也作品は面白いけど苦手で好きになれない
ダメな作品とは思わないんですよ。
現代のさまざまな社会問題をうまく取り込んでるし、全体として見れば興味深い作品ではあるんです。
予告を見て、本作を見る気になったから見たのも事実です。ただし、これは原作のよさだけかもしれません。
石井裕也作品特有の最初から終わりまで「善」と「悪」の判断がキッチリ決まって、それが押し付けられる感覚はやはり気持ちよくないです。映像やストーリー的な余白はあっても価値観の余白がないんです。
加えて、これも同監督の作品でよくあるストーリー的には脈絡のない脇役として「醜悪なもの」を登場させ、それをことさら酷く描くことで、作品の主題を強化しようという独特の「手癖」は見ていて本当に不愉快なものがあります。
原作の平野啓一郎さんの政治的スタンスは好きではない部分もありますが、作家として作品にするときには、絶妙な匙加減である種の「党派性」を消して、打ち出したいテーマを表現しているので、その意味では非常に信頼できます。しかし、本作は石井裕也監督がその消したはずの党派性を、再度わかりやすく浮かび上がらせているため、ひとつの作品ではなく、ある種の単調でプロパガンダとして成立してしまっています。
現在の日本社会に多くの問題点があるのは事実ですし、テクノロジーがそれを加速させている側面は否定し難いです。ただ、それをそのまま作品として表現したものが一本の「映画」作品として素晴らしいかは完全に別物です。
このような理由から面白くなかったわけではないですが、まったくといっていいほど、満足できる作品ではありませんでした。
P.S. テクノロジー的な考察の面や社会的な問題の切り取り方でも雑な作品なので、石井裕也監督は脚本を第三者に任せるか、監修を付けた方がいいと思います。