「新登場のメンバーに尺を取りすぎ」グランメゾン・パリ アラ古希さんの映画レビュー(感想・評価)
新登場のメンバーに尺を取りすぎ
2019 年のテレビドラマ「グランメゾン東京」の続編である。テレビドラマを見ていないと人物関係が全くわからないので、最低でも映画公開のために作られた総集編的なスペシャルドラマを TVer などで見ておく必要がある。
一度はミシュランの三つ星を獲得しながら、その後のコロナ禍の影響で星を失って凋落したグランメゾン東京の再生に尽力した早見倫子は、相棒の尾花夏樹とパリにグランメゾン パリを開店して、最も評価の厳しいパリで三つ星獲得を目指すが、なかなか二つ星から抜けられないでいる。
三つ星レストランともなれば、金に糸目をつけない超一流のセレブが来る店であり、何より大事なのは最もクオリティの高い食材を入手することであるが、市場での一流食材の行き先は取引の長い老舗高級店に占められていて、マトモな食材の入手さえ困難な状況に置かれる。
馴染みのメンバーの奮闘が描かれるのだが、それだけでは盛り上がりに欠けると思ったのか、この映画で初登場になる韓国人パティシエが個人的な金銭トラブルを起こして、かなりの尺がそのエピソードに割かれてしまっていた。
そのトラブルというのが、腕を上げるために高級食材を個人的にコレクションして試作を続けていたので、借金が嵩んでヤバい相手から借金してしまい、その取り立てに苦しんでいるというものである。アパートの部屋いっぱいに高級食材を買い集めたという行動にまず呆れてしまった。パティシエの収入で返済できる額を遥かに超えており、この男はどうやって返済するつもりなのかと思わされた。返す当てのない借金は、故意に泥棒を働いたも同然である。
その借金取り立てのヤバい連中の行動も全く不可解であった。脅しや暴力などの圧力をかけるだけならまだしも、借主の生活基盤を破壊したり、生命を奪おうとする行為は、資金の回収を断念したのかとしか思えないものだった。いくら怖がらせようとしても、殺人や放火は目的を見失った愚か極まる話である。おまけに、パリのような住宅密集地で放火などしたら大規模な類焼を招くのは目に見えており、重罪に問われることになって大損である。
こんな話を見に来たのではないという思いに終始苛まれた。おおかた、制作費を提供する代わりに韓国人を出演させろとゴリ押しされた結果であろう。見たことのない役者だと思ったら、K−poop のアイドルだそうで、ワンパターンで薄っぺらい演技は映画全体の質を下げるばかりだった。日本人と韓国人が互いに自国語で怒鳴り合いながら会話が成立するなど、なかなかシュールな見せ物だった。
美味しそうな料理の見せ方は流石だったが、それを食べている連中がどう思っているのかは何も説明されず、食べている表情しか手掛かりがないのも不満だった。「孤独のグルメ」のようにナレーションを入れたほうが良かったと思う。そもそもこれは映画にする必要があったのかという思いがした。スペシャルドラマで十分だろう。
(映像5+脚本2+役者3+音楽3+演出3)×4= 64 点。