「「踊る大捜査線」として見ると、期待を裏切られる」室井慎次 生き続ける者 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
「踊る大捜査線」として見ると、期待を裏切られる
第1作で遅々として進まなかった殺人事件の捜査が、第2作ではテンポ良く進むのだろうと期待したのだが、冒頭から3人の子供たちの話が続くばかりで、どうなってしまうのだろうと不安に思う。
やがて、電話から聞こえた港の音だけで、あっさりと犯人が捕まってしまうところで、これは、犯罪ミステリーではなく、(擬似)家族の繋がりを描こうとした映画なのだということに、ようやく気が付いた。
ただ、その割には、物語の核心部分を担うと思われた日向杏が、すっかり素直で優しい「普通の子」になってしまったのは、物足りないとしか言いようがない。
ここは、母親に洗脳されて邪悪な性格になってしまった杏を、室井の人間性で立ち直らせるというプロセスを、もっと丁寧に描いても良かったのではないだろうか?
前作の流れから、クライマックスは、刑務所の面会室で、室井(と杏)と日向真奈美が対峙する場面になるに違いないと予想したのだが、そうした期待も見事に裏切られてしまった。
一方、本作の最大の山場となっている、下の男の子の養育問題にしても、親としての適性よりも、血縁関係を重視しているような児童相談所の判断には、疑問を感じざるを得ないし、2度と子供に会わないよう、室井に釘を刺す所員の対応も、度を越しているとしか思えない。
何よりも、男の子本人の意向を確かめようとしないのは腑に落ちないし、男の子が逃げ帰って来た時に、室井が、すぐに児童相談所なり、警察なりに通報しないことにも不自然さを感じてしまった。
せっかく、実の父親から男の子を取り戻したところで、室井が、ああいう結末を迎えることにも、「じゃあ、これから先、誰が子供達を育てるんだ?」という、釈然としない疑問が残る。
エンドクレジットを見ると、近所の人達に支えられながら、子供達だけで生活を続けているようなのだが、それは、非現実的だし、もはやファンタジーと言ってもいいだろう。
犯罪が起きた場合、加害者や被害者の家族が苦しむことになるというメッセージは、確かに心に刺さってくる。
上の男の子が、警察官僚になることを目指したり、秋田県警で、現場とキャリアが一体となって活動できるようなモデルケースが作られたり、将来的に、室井の家を児童養護施設にする方向性が示されたりと、室井の意志が確実に引き継がれていることが分かるラストにも、希望を感じる事ができた。
ただ、警察ドラマの傑作だった「踊る大捜査線」に期待するものは、「これじゃない」と思えてならない。
もしかしたら、制作陣が一番やりたかったのは、エンドクレジットの後の、最後のシーンだったのではないだろうか?