劇場公開日 2025年2月14日

「パパの言いなり」聖なるイチジクの種 とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0パパの言いなり

2025年2月14日
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神への服従と信仰心、父権制・夫への忠誠心。ヒジャブに象徴される国家や文化が求めてくる(その多くは女性に強いてくる)、体制への疑問符と大文字の"NO!"を突きつける。作品が見せる表情が作中何度も(大きくは2度、三幕劇)変わっては、予想打にしない展開に雪崩込んでいく衝撃の展開から目が離せない…。冒頭に流れるタイトルの意味も込みで考えさせられる勇敢な作品だ。
旧態依然の考え方で夫ファーストで夫を立てて尽くし、娘たちにも清廉潔白を求める妻と、もっと今の時代を反映して当たり前に進歩的な娘たちの対比。朝早くから夜遅くまで帰って来ない父の仕事もよく分からないまま息苦しそうな家庭。本編前半中盤程度まではその多くが家の中で展開される作りだがダレないし、実際の映像と思しきスマホ撮影の映像が頻繁に挿し込まれることで、ドキュメンタリー性を帯びる。
常に目がある、いつも誰かに見られている。革命裁判所に勤続20年、夢にまで見た要職に就く主人公イマン。昇進と同時に渡された拳銃。国家権力・体制のために働き、裁いた人から逆恨みされる危険性のある仕事柄、周囲の人々に自身の仕事を軽々と言えないわけだけど、昇進を機に家族には伝える。…が、そこから家族の夢見る幸せへの歯車が狂っていくさまが秀逸で、家族各人のキャラクター描写も見事。
作品終盤の父が狂っていくさまは、『シャイニング』『モスキート・コースト』『ノア 約束の舟』等を彷彿とさせる、まさかの命がけかくれんぼに!舞台となるイランの背景を知らないことには、本作の核心・本質を正しく理解することはできないかもしれないが、それでも力強く強烈な映画体験だった。アスガー・ファルハディ監督作品も彷彿とさせた、表現の責務と可能性。不当なものへの闘いには、スマホを向けて(←されるとムカつく)白日のもとに曝してやれ!

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とぽとぽ