「天才の孤独な魂を沈静する狂気」ビューティフル・マインド Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
天才の孤独な魂を沈静する狂気
総合:70点
ストーリー: 70
キャスト: 75
演出: 70
ビジュアル: 70
音楽: 80
映画の内容のほうには、現実とは違うという批判があるようである。だがそこは置いといて、面白かったのは本人の精神的錯乱の描写。天才とは凡人とは違うから天才である。あまりに数字の世界に没頭するために、人との付き合いがなくなり、自分の苦悩を分かち合ったり相談したりする相手がいない、いやそもそも友人なんてものが最初からいない。いつも自分の探求する道の限界を追い詰めすぎるからこその天才であるが、それがゆえに学者としては優秀でも、一人の人間としては当たり前のことが充足されない。彼にも喜びを分かち合い、苦しみを支えてくれて、彼の心を理解してくれる人が必要だった。彼を必要だと直接言ってくれるものが必要だった。
だからそれを補うための、彼が必要だと思うものやことがどこかに存在しなければ、彼はもう人として精神を維持したり存在したりできなくなるのだろう。天才である自分と、ただの一人の人間としての自分。いかに勉強が出来ても、彼の心には空虚と孤独ばかりだったに違いない。だから自分の理論と一緒に、人としての自分を維持するためのものを心の中に創造する。時にそれは人であり、時にそれは任務であった。その気持ちがすごく伝わってきた。
かつて「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」で少女役で新鮮な演技を見せていたが、その後やや伸び悩んでいたジェニファー・コネリーが、現実の世界で唯一彼を理解しようとする献身的な妻として登場して復活を遂げた。狂気に取り付かれていくナッシュを演じたラッセル・クロウも良い。本作品の前年に「グラディエイター」で剣闘士を演じていた筋肉男と同一人物とは思えない仕上がり。そしてプリンストン大学の威厳のある美しい学舎を背景に、透明感のある清らかな歌声をシャーロット・チャーチが聞かせてくれた。この数年後には酔っぱらって彼氏を暴行するなどして醜聞を重ねるとは思えない見事な天使の歌声であった。
ちなみにこの映画は、私が履修した経済学の教授の大のお気に入り推薦作品でした。これがあのナッシュ均衡理論でノーベル経済学賞を受賞したナッシュ教授かと思うと、個人的には余計に興味を持って入り込みやすかった。