「エイリアンシリーズへの愛が凄まじい大傑作」エイリアン ロムルス 南雲さんの映画レビュー(感想・評価)
エイリアンシリーズへの愛が凄まじい大傑作
私がエイリアンと出会ったのは物心ついて間もない頃だったと思う、レンタルVHSだったかテレビ放送だったかは忘れてしまったが初めて見たエイリアンは2だった。衝撃的な内容にそれ以来シリーズの虜になりプロメテウスシリーズを含め何度も見返している。子供の頃は胃の調子が悪くなるとお腹の中にエイリアンが居るのでは無いかと心配になる程だった。2012年にリブートを果たしたプロメテウスは個人的に大好きな作品だが世間の評価は賛否両論だったと思う。しかし、今作ロムルスはシリーズのファン程楽しめる大傑作に仕上がっている。シリーズ未見の人間であれば何故あれほど文明が進んだ世界で重苦しいブラウン管のモニターやガチャガチャと五月蝿そうな物理キーが満載なのかと疑問に感じるだろうが、ファンにとってはこれこそエイリアンの世界だと沸き立つ筈だ。SF作品は長らくブレードランナーのようにごちゃごちゃと情報量の多い世界観が主流だったが、近年の作品では極力無駄を削ぎ落とした"スマート"に荒廃した造形に変化しつつある。そんな潮流に逆らうかの如く雑多で重苦しく未来世界であるにも関わらずどこかノスタルジーを感じる世界を提示された瞬間今回のエイリアンはかなり面白くなると確信した。劇中はエイリアン1〜4を彷彿とさせる場面が数々登場する。この手法は旧作に媚を売っていると取る人もいるだろうし、実際私も沢山のリブート作品でその感覚を味わい劇場でがっかりとさせられたが、本作ではシリーズへのリスペクトを存分に感じられ旧作オマージュを殆どすべて前向きに捉える事が出来た。私はエイリアンシリーズの肝を"生命に対する根源的な不安"だと思っている。嫌な表現をするが生き物は気持ち悪い、どんな生物も不安定な面があり不完全さが不安を掻き立てる。これも偏見なのかもしれないが、男である私は一年近く自らの体内で生命を育み産むという行為が出来る女性という存在に、男は絶対に敵わないのだと考えてしまう事がある。エイリアンシリーズには間違いなく女性の強さというテーマが内包されている。それと同時に女性にしか出来ない出産という行為に対する未知の恐怖も存分に描かれているのが今作だ。終わったと思ったのに終わっていない展開をサービスしてくれるのがシリーズのお決まりであるが、終盤の"アレ"は生命という存在に対する未知の恐怖を具現化していたと思う。エイリアンシリーズは4以降、エイリアンでも人間でも無い様々な何かを表現してきたが、そんな不完全な存在と"完璧"な存在であるゼノモーフを二度味わう事が出来る上、シリーズに欠かせない普遍的なテーマや、陰鬱な宇宙船の造形など、画でも楽しむ事が出来る豪勢な作品に仕上がったのがエイリアン・ロムルスだ。