劇場公開日 2024年10月4日

「地獄めぐり映画」シビル・ウォー アメリカ最後の日 moviebuffさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0地獄めぐり映画

2024年11月5日
PCから投稿

遅ればせながら鑑賞。タイトルの通りこれは戦争映画の定番と言ってもよい、地獄めぐりロードムービーと言えよう。トゥモロー・ワールドとの類似性もあるし、特に意識されているのは地獄の黙示録と、フル・メタルジャケットかと。一聴すると深刻な状況に相応しくないポップミュージック、ロックが突然鳴りだす演出はキューブリック的だし、ドアーズのthe endのイントロっぽいムーディーな音楽とオレンジのライティングは地獄の黙示録、大量の死体に白い粉がまかれる場面もフルメタルジャケットを彷彿とさせる。人によっては王を狩りに行く旅というところで、地獄の黙示録との類似性を指摘する人もいるだろう。

特に重要な引用としてはエンディング。旅前半の会話の中で主人公の最後を新米の彼女が撮る事になることはなんとなく、ほのめかされていたが、そのシーンの新米の彼女がカメラを見つめる絵は、フルメタルジャケットのエンディングで撃たれたベトコンの少女が仰向けで横たわりカメラを見つめる構図を思い起こさせる。観察者と被写体、狙う側と狙われる側の立場が入れ替わるというのはフルメタルジャケットのエンディングとも重なるところだ。(少女のベトコンが言う台詞「Shoot me」が実は英語だと「私を撃って」という意味だけではなく、「私を撮って」という意味もある事とも物語が重なる。)

ただ、それらのオマージュや引用を観る前にわかっている必要があるかというと、そうでは全くないと思う。私はこの映画は古典的なロードムービー同様、基本的には映画の読み解きよりも観客が見てる間、見終わった後、何を思ったか、どう感じたか、自分の中で何が変わったかを考える方、味わう方が重要な映画だと思う。

アレックス・ガーランドという監督はエキスマキナ、アナイアレイションを撮った監督であり、28日後の脚本家でもある。つまり基本的にはSF作家なんだと思う。で、シビルウォーも考え方によっては戦争映画ではなく、超近未来シミュレーション映画とも取れる。

SFの役割は、現実ではまだ体験できない何か、それは例えばテクノロジーの変化や社会の変化、人類の終わりといった出来事に人類が直面する状況を疑似体験する事で、その時の感情も観客は味わえるところにあると思う。その映画を観終わって劇場を出た後に、実際に我々の現実の世界の感じ方、見方がが変わってしまうのだ。

宇宙船が飛んでいるからSFなのではなく、疑似体験を通して人生や社会の見方に影響を与えられるのが優れたSFだと思う。将来こうなるのであれば、我々は今、そしてこれから、どう生きるべきなのかと言う実在論につながっているのである。その意味で、シビルウォーも十分SF的な力を持っている、観客の感情を揺さぶり、現実社会の見方について考えさせることに成功している作品だと思う。

moviebuff