劇場公開日 2025年3月20日

「時代の歩み」教皇選挙 たまさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0時代の歩み

2025年4月20日
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映画を見終え、圧倒される、という経験は映画好きの方なら少なからずあることだと思う。
その物語に、描写に、音楽に、ラストに…
そのような作品には、そうそうお目にかかれるものでもないが。
今作は私にとってはそのような物語だった。

キリスト教カトリック総本山はバチカン市国。日本からは遥か彼方。キリスト教からも近い国とはいえない。
カトリック教会最高指導者ローマ教皇が急逝。首席枢機卿ローレンスは後継教皇を決定する選挙、コンクラーベを執り行わねばならなくなる。
世界各地から高位聖職者たちが集まってくる。
どの世界にもあるリベラル対保守の争い、スキャンダル、陰謀、出身地のこだわり、派閥争い、秘められた謎…宗教人といえど人間。彼らの生々しい姿が描かれる。
「宗教権力者を決定する選挙」という閉じられた世界のストーリーという骨格を持ちながら、今作の精神性は閉じていない。
現代社会に生きる私たちに対する鋭い問いかけ、普遍性を持つ。
ややもすると、閉鎖された空間劇は単調に陥りがちだ。しかしP・ストローハンのシナリオ、エドワード・ベルガーの濃密な演出はその陥穽に落ちない。
映画映像的興奮に包まれる120分。コンクラーベをダイナミックかつドラマティックに描き、片時も目を離させない。

重厚なキャスト陣には名優揃い。首席枢機卿ローレンスにレイフ・ファインズ、静かにしかし熱のこもった演技で物語を導く。スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー。物語の鍵を握るシスター役には、いまや生けるレジェンド俳優といっても過言ではないイザベラ・ロッセリーニ。故デビッド・リンチ作ブルーベルベットでのインパクト大の演技。今作での存在感ある貫禄の演技には脱帽。

コンクラーベは戦争だ、と息巻く聖職者たちに静かに
アフガンカブール教区のベニテス枢機卿がはなつ言葉。
「あなた方は、本当の戦争を知らない」と…
そうなのだ。自分も知らない。映画、TV画面越しの映像でしか知らないのだ…脳裏に焼きつくセリフの数々…

また、カトリックでは女性が司祭になることは認められておらず、世界最古の家父長制とも言われている。

ラスト近く、広場を亀がゆっくりと歩むのをローレンスが見つめ、池に優しく放す。印象深いシーンだ。

時代の歩みは行きつ戻りつ。どちらへ向かうのかもわからない。私たちは理想の世界に生きているわけでもない。
悲劇はあちらこちらで今も起き続けている。
だが、希望も理想も手放してしまってはいけないのではないか、と静謐にしっかりと訴えかけてくる作品である。

たま
ひなさんのコメント
2025年5月8日

たまさま
共感ありがとうございます😃

新教皇の名前「インノケンティウス」、調べていくと「えっ!?」と固まりました。
全てはシナリオ通りなのか、あるいは最も選んではいけない人物だったのか…
私が思った以上に、奥行きの深い作品でした😓

ひな
sugar breadさんのコメント
2025年4月21日

たまさん 共感&コメントありがとうございます。
「見終え、圧倒される」まさにその通りの映画体験でした。
また、「本当の戦争を…自分も知らない」私も同じように感じ入りました。
観る者の気持ちを的確に伝えるレビューありがとうございます。

sugar bread
ファランドルさんのコメント
2025年4月20日

この作品こそアカデミー賞の作品賞にふさわしい、というレヴューの方がけっこういますが、この内容と結末に、拒否反応のキリスト教徒のアカデミー選考委員が多かったのでは、と、これは勝手な推測です。

ファランドル
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