「テーマがぼやけてる、ような。」アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 jimmyさんの映画レビュー(感想・評価)
テーマがぼやけてる、ような。
少し描写が足りないように感じる部分があり、結果としてメインテーマがぼやけているように思えました。
まず最序盤、ロイ・コーンの仕事ぶりについて。いつも裁判所などでは暴言を吐くばかりで最終的には脅迫で全部片を付けるというワンパターンなやり方でした。もちろん、ロイが悪辣な弁護士であることはこの物語の重要なピースではあるのですが、もう少しどうにかならなかったのかなあ、ロイの有能さの描かれ方が少し足りないのでは?と感じます。他には、ロイがなぜここまでトランプに目をかけたかという理由も欲しかったです。
中盤では、トランプが市長とケンカをして以降、しばらくロイが出てこなくなってしまったように覚えています。トランプがロイ・コーンから離れていくところをもう少し描いてもよかったのかなぁと思いました。これはトランプとトランプの兄とのシーンも同様で、なぜ兄が堕ちていったのかとか、そもそもの兄とトランプの関係性とかも、もう少し描写が欲しかったです。
独善的になっていくトランプも、内心の葛藤のような描写があまりなく、なんか変わっていったね、という域を出ないかなと思いました。例えば、経営面での行き詰まりや、家族との関係から、「強いトランプ」像を作り出さざるを得なかった、とかそういう描き方もできたのではないでしょうか。今のままだとただ傲慢な人格が勝手にできたように見えて、再終盤でのロイとの和解(?)などにどうつなげればいいのか少し難しいなと思います。
終盤に向けてロイ・コーンが再登場しますが、彼がなぜ落ちぶれていったか、という描写も物足りないかなと思いました。再登場したと思ったら病気なのか資金繰りなのかよれよれになっていて、もう少し説明が欲しかったです。ロイはトランプの他にもたくさん顧客はいたでしょうから、なんでああなったかはもう少し描写があってもいいと思います。もちろん訴訟がどうとか言っていましたけど。
最後のロイ・コーンとの死別のシーンはよかったかと思います。いろいろな受け取り方はあるかと思いますが、トランプはロイのアプレンティス(弟子)であり、ロイを切り捨てることは結局できなかった、ロイがAIDSだとわかって後に席を消毒するほどでも、一緒に食事をとろうとするほど彼のことを気にかけていたのではないか、と私は思いました。当時はHIVへの差別も今とは比べ物にならないほどすさまじかったでしょうしね。
ただ、カフスボタンがダイヤモンドかジルコニアかというのは、解釈に困っています。別荘に招待したり、そもそもカフスボタンを作ったりなど、トランプはこの時点で十分お金をかけていますし、トランプが吝嗇だったという描写もない。妻がロイへの復讐でそういったという解釈も可能でしょうが、トランプはロイにここまでお金も時間も使っているわけですから、そんなことを言われたってロイも一笑に付せそうなものです。大体ダイヤモンドより実業家が丸一日付き合ってくれるという時間のほうがよっぽど貴重なわけで、仮にジルコニアだとしてもショックを受けるほどかな?と思いました。
総じて、トランプのキャラクターやその「成り立ち」を表面的に描いた作品としてはそれなりに楽しめました。ただ、トランプ周りの人間関係を全部盛り込もうとしすぎたあまり不完全燃焼になっている部分があるようにも思えます。「アプレンティス」という題なのですから、ロイ・コーンとドナルド・トランプの二人の関係に焦点を当てたつくりにしてもよかったのではないか、と思いました。