「ケモノノケモノ」動物界 uzさんの映画レビュー(感想・評価)
ケモノノケモノ
サスペンススリラーになりそうな題材で描くヒューマンドラマ。
フランソワ視点で始まった物語は、症状の進行と連動するようにエミールに比重が移る。
状況説明はスムーズで、父子がメインであることを考えれば学校や職場、憲兵の比重も適切だったと思う。
哺乳類ならともかく、鳥類や爬虫類、ましてや軟体動物にはならんやろ、とかは言いっこナシ。
人間の身体のままで飛べんやろ、も禁句。
前提として“そういうもの”だと受け入れる必要はある。
出色はエミール役の演技で、変容に対する苦悩や動物としての動きという内的/外的どちらの面も抜群。
そういった意味ではフィクスも秀逸で、この二人の交流がとてもよかった。
その分、変容した者たち自身の“どう生きるか”という葛藤や決断が描かれないのは勿体ない。
特に思春期のエミールにとって、ニナとの今後なんかは大問題のハズなのに。
父は、どうす“べき”かだけでなく、息子がどう“したい”かをもっと聞くべきだとは思った。
しかし常にそこに確かな愛情があったのは間違いない。
彼はただ息子が自由に生きられることを望み、信じた。
冒頭の「服従するな」「反抗する」という会話に繋がるラストから感じる生命力は、とても力強い。
変容が始まる箇所もペースも、凶暴化の度合いなども、個体差が大きそうで法則性は見えない。
原因の究明や今後どうしてゆくかという話には到らず、あくまで入口の話。
そこが物足りなくもあるが、しかし一番考えを巡らせるべきなのもこの“一歩目”だよなぁ。
アルベールがとても可愛いので、終盤出なくて寂しい。
非常に印象に残る作品でしたね。
エミールが徐々に動物へと変化していく様子、フィクスが飛べるようになると共に言葉を話せなくなる等、徐々に人間性が破壊されていく様が何だか絶妙に生々しくて奇妙でした。またエミールを受け入れたニナにもグッと来ましたね。そしてラストの雄叫びを上げながら森を疾走するエミールの姿は非常に刺さりました。