劇場公開日 2024年10月11日

「見続けたファンにはこの上ない贈り物」室井慎次 敗れざる者 アラ古希さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0見続けたファンにはこの上ない贈り物

2024年10月11日
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鑑賞方法:映画館

「踊る大捜査線」は 1997 年に1シーズンテレビ放送されたのをキッカケに、続編の本編4本が映画化されたほかにスピンオフが2本映画化されたドル箱企画である。テレビドラマから 27 年、最後の映画化作品から 12 年も経っており、最近の若い人の中にはテレビドラマをリアルタイムで見ていなかった人も多いはずである。私が見た劇場の客席にはオールドファンばかりだった。

定年前に警察を退職して郷里の秋田に戻った室井は、里親となって2人の男の子を育てている。郷里といっても生まれ故郷とは違うようで、移住先の住人との軋轢も描かれている。これまでのテレビシリーズや映画化作品との直接的な繋がりはないが、新たな事件の被害者や警察関係者にはかつての懐かしい湾岸署メンバーが顔を見せている。テレビシリーズの回想シーンは高画質化処理されていて非常に見易かった。

監督と脚本とプロデューサーは最初のテレビドラマから一貫しているが、音楽担当は松本晃彦から菅野祐悟を経て、武部聡志に代わっており、本作ではこれまで聴き慣れた「踊る」のミュージックナンバーはほとんど流れない。従って、音楽の面では「踊る」のシリーズ作という印象はない。

新たな登場人物には、里子の2人を含め、映画第一作で暴れ回った精神的に異常な日向真奈美(小泉今日子)の娘らしい少女(杏)も登場する。この少女の行動が非常に怪しくて、3人で静かに暮らしていた一家にいい知れないストレスを与え始める。また、2人の里子のうち、大きい方の子(タカ)は母親を殺害された遺児であるが、小さい方の子(リク)は父親が別事件の犯人という立場の違いを見せている。

警察関係者には懐かしい顔が多く、現在の身分紹介と共にかつての立場が回想されている。これらの小ネタはオールドファンの気持ちを快くくすぐってくれていて、これまで見続けて来た人にはこの上ないご褒美になっている。現在の青島の立場は台詞で語られるのみで本人は登場しないが、回想シーンでは非常に多くの姿が見られるのも嬉しい。

タカの母親を殺害した男の弁護士と名乗る女性がまた大きなストレスをもたらすが、それに対するタカの態度が本作の最大の見どころであると思われる。また、後編に続くリクの父の登場と、杏の不審な行動が続編への興味を引く。本作を見てしまったら続編を見ない訳にいかないという心境にされるのは流石の脚本の力である。続編公開は 11/15 で、今から非常に楽しみである。
(映像5+脚本4+役者5+音楽3+演出4)×4= 84 点。

アラ古希