劇場公開日 2024年7月19日

「逃走中ってこんな作品だったっけ…」逃走中 THE MOVIE yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0逃走中ってこんな作品だったっけ…

2024年7月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今年257本目(合計1,349本目/今月(2024年7月度)20本目)。
※ (前期)今年237本目(合計1,329本目/今月(2024年6月度)37本目)。

(前の作品 「あのコはだぁれ?」→この作品「逃走中 THE MOVIE」→次の作品「怪盗グルーのミニオン超変身」)

 社会人でバリバリ(テレワークでも)働いていると、時間も惜しいので民放もあまりみないのですが、固有名詞としての「逃走中」はある程度知っているし、映画内で示されるような「こんな作品だっけ?」というところが大半の方が描く映画だろといったところです。

 大筋としてはテレビ枠のそれと変わらず「ルールの範囲内で逃げ切れたら賞金がゲットできる」というものですが、この映画はそれは踏まえつつも展開がすごく、未来(100年単位)の話が出たり、特殊部隊??の話が出たりと、「こんな作品だっけ?」というウルトラ展開がすごく、「んん??」というところに意見の大半が来るのかなという気がします。

 ただ、テレビ版の「逃走中」それ自体をまとめても「逃走中の名シーン総集編」みたいな作品にしかなりませんでしょうし、「一応は」逃走中のルールが存在するなど、ある程度の配慮はあるものの、7月3週で競合枠が多い中でこの作品を選ぶかなぁ…といったところはありますね。

 決して「駄作」ではないのですが、テレビ版の「逃走中」を見ていれば、「下敷き」としてそれがあることはわかっても、展開としては未来がどうだのなんとかテクノロジーが何だのといったすごい展開に飛ぶので、そこが好き好み分かれるかなといったところです。一方で中高生の方が見る点には配慮のあるシーンもあり(後述)、何とも採点のしがたいところです。

 採点に関しては以下まで考慮しています。
上述どおり、「逃走中のシリーズは前提とはしているが、映画は別ワールド」と考えたほうが良いのではと思います。

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 (減点0.6/民法132条に対する考察が雑)

 不法な条件を付した法律行為は、無効です(132条)。また、不法な条件を「しないこと」を条件にしたものも無効です(132条但し書き)。この映画はかなり不法性の強いテーマであり(通常の逃走中であれば、まぁ賞金額が法の範囲を超えるとかということはあろうかと思いましょうが、そんな不法なことを最初から条件にしない)、一方で132条は強行規定なので(殺人契約等はこの132条、あるいは90条で無効です)、1億円もらえるとかもらえないとかという以前に無効な行為であり前提を欠いているように思われます。

 (減点0.3/事務管理に対する考察が雑)

 法律上の義務なく人助けなどをする行為を事務管理といいますが(697条以下)、映画内にせよ、テレビ版のそれにせよ、参加者は何らか困っている人がいるとしてもその救助義務を負うのではありません(その人自体が引き倒したなどは、「当然に」救助義務が発生します)。一方で、一度でも人助けに入った場合にはその事務管理が終わるまで責任を持ちます(697条以下)。

 したがって、この映画にせよ、テレビ版のそれでも、他の大阪系のテレビ局の似た企画でも何でも、参加者は「血まみれで倒れている人がいても無視する、自分の賞金がゲットできるようにする」ことが最適解になります。一方で日本の事務管理は「相互扶助」の意味合いが強く、そうした作品に出ている等の理由で人助けを拒否されたりすることも現行民法の想定するところではなく、ここも映画内ではそうしたシーンがある(倒れている人を救助する、あるいは無視するなど)ところ、ここは何らかのアプローチが欲しかったです。

 ※ 事務管理は、費用は請求できますが、被害額については請求できません。したがって、逃走中でも何でも、「あなたを助けたばかりに失格になってしまった、賠償しろ」は通りません。「したがって」、無視することが最適解になるのですが、日本民法も、日本の一般的な道徳モラルもまたそれを当然想定していないので(それによって、熱中症の人が実際に死亡したとしても、事務管理の条件を満たさないなら民法上の責任も問われないし、単純遺棄罪(刑法)にも問われない)、ここはある程度の配慮が欲しかったところです(すくなくとも映画内でそれを想定できるシーンが多すぎ)。

 ※ 単純遺棄罪は、同じ類型の「保護責任者遺棄罪」と比べたとき、「単純な置き去りは含まれない」という考え方があります(後者については、親がパチンコに行っていたときに車の中で熱中症で亡くなったなどの「置き去り」で逮捕されることがありますが、前者のように保護責任がない場合は「置き去り」は含まないというのが通説です)

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 (減点なし/参考/「一人3つまでの数を順番にいって、21を言った人が負け」のゲーム)

 登場人物に数学科の方がいるのにあまり設定がいかせていないシーンですね。
私は数学科卒(同大学院卒)なので、映画をみながら考えていました。たしか5人か6人かで円を組んで、時計順かで数字を言い合うゲームだったと思います。

 この点「だけ」に限って言えば、ルールが単純なこともあって、小中学生の夏休みの研究などで「この点考えてみた」などで取り上げられても良いのかなと思います。

 詳細は省略しますが(数学.comではないので)、特定の必勝法があります。大学の数学科、物理学科など数学の二次試験(論述式)が科される大学なら、ある程度の誘導小問をつけた上で「よって、誰がどのようにすれば必勝法があるか、あるいはないか述べよ」という形で出せそうな気がします(誘導小問がなくこれだけ聞けば確実に厳しい)。ただ、中高生の「自由研究」の範囲であれば完全回答でなくても「映画を見ました、映画内で出ていたこのゲームについて研究してみました、自分なりの回答は~~なので~~です」というように書けば評価はしてもらるでしょうし、内容如何によっては「数学科に行きませんか?」なんて声をかけてもらえるかもしれません。

 (※) ここでいう「必勝法」というのは、映画の描写、あるいはゲームの趣旨として「自分が絶対に21を言うことがない」(自身が負けることがない)という意味。

yukispica