「誰かを悪者にしなくても、この恋は成立したはず」アイデア・オブ・ユー 大人の愛が叶うまで 月乃さんの映画レビュー(感想・評価)
誰かを悪者にしなくても、この恋は成立したはず
見応えのある作品だった。
ニコラス・ガリツィンの甘いマスクと声に心を掴まれたし、アン・ハサウェイの40代とは思えない可愛さと美しさには本当に見惚れた。2人の組み合わせは絵になっていて、映像の美しさも相まって、夢のような時間を過ごせたと思う。
でも、私は歳の差恋愛には否定的な立場。
年齢差が大きい恋愛は、相手との関係性にどこか力の偏りが生まれてしまう気がしてしまう。観ている間は2人の関係があまりに自然で美しいので歳の差のことは忘れてしまいそうになるけれど、それでもやっぱりどこかに「この関係は大丈夫なのか?」という違和感が残ってしまう。
それ以上に強く引っかかったのが、元夫・ダニエルの存在。
彼は最初に若い女性と不倫して家庭を壊した側でありながら、ソレーヌとヘイズの関係が明るみに出た途端、まるで裏切られたかのように「嘘をついたな」と責めるような態度を取り、執拗にメッセージを送りつけてくる。そして、ヘイズに対しては「俺の妻といつまでこんなことを続ける気だ」と言い放つ。
すでに離婚しているにもかかわらず、“俺の妻”という言葉を平然と使うあたり、ソレーヌを自分の所有物のように思っていることが透けて見えて、とても不快だった。
女性が若い男性と恋愛をすることが許せない、
離婚した女性は元夫の影を一生引きずるべきだ――
そんな古くさい価値観を無意識に押しつけてくるような態度に、強いミソジニーを感じた。
自分が先に裏切っておいて、元妻が自由に恋をすると怒り出す、非常に身勝手な人物として描かれていた。
ただ、ここで気になったのは、ソレーヌとヘイズの恋愛を“応援できるもの”に見せるために、ダニエルというキャラクターが極端な“クズ男”にされてしまったこと。
もしダニエルがもっとまともな、価値観の違いで離婚した父親として描かれていたなら、物語の深みも増したんじゃないかと思う。彼が冷静に、年の差交際について「本当に大丈夫なのか」と疑問を投げかけるだけで、ソレーヌの葛藤にも説得力が出て、2人の再会のラストもより心に響いたかもしれない。
観客に2人の恋を応援させるために“悪役”を作るようなやり方は、少し乱暴に感じた。
私は今でも歳の差恋愛には反対の立場にいるけれど、
それでもこの作品が届けてくれた、美しい時間や、今の社会に対する問いかけの強さは確かに感じた。
特に主演2人の存在感と演技力には圧倒されるものがあって、そこに惹きつけられたことは間違いない。