「取り込み、再生し、自立させ、送り出す」Shirley シャーリイ ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
取り込み、再生し、自立させ、送り出す
2020年公開のアメリカ映画を
四年も経ってから日本で封切りの運び。
バーモント州ベニントン大学の教授『スタンリー(マイケル・スタールバーグ)』は
妻の『シャーリイ(エリザベス・モス)』と二人で暮らしている。
小説家の『シャーリイ』は新しい長編小説に取り組み中も、
極度のスランプで家に引きこもり状態。
『スタンリー』が新しく助教になった『フレッド(ローガン・ラーマン)』を
彼の妻『ローズ(オデッサ・ヤング)』ともども我が家での同居に誘ったのは
単に親切心からではなく、彼女に『シャーリイ』の面倒を見させ
家事もさせようとの魂胆があってのこと。
が、閉じた共同体の中に異物(=よそ者)が入って来ることで
予想だにしなかった化学変化が起きる。
『スタンリー』は度を越した女好き。
学長の妻や女子大生にも手当たり次第に粉をかけ、
『シャーリイ』もそのことを知っている。
あまつさえ、同居を始めた『ローズ』にも色気を出す。
夫の昇進の鍵を握っている『スタンリー』をむげにはできず、
勿論、それを踏まえた上での行為なわけだが。
最初は反発し合った『ローズ』と『シャーリイ』は
次第に息が合うように。
とりわけ取り組んでいる新作のリサーチに協力し、
主人公の心情を代弁するようになってからは
その親密度は増していく。
冒頭から画面のトーンは暗めで、
1940年代を思わせるくすみに満ちている。
カメラワークやカット割り、
BGMや効果音の全てが不穏さを感じさせ、
一瞬{ホラー映画}と勘違いるするほど。
が、実際にはそうした要素はほぼ無く、
一方で家庭内に漂うぴりぴりした空気を表現するには
絶妙の手段になっている。
『ローズ』の協力もあり、新作は完成に近づき、
そして、ここで変化の最たるものが発露。
それは、今までは可愛い優しいお嫁さんだった『ローズ』が
婦人としてひとり立ちし、夫やそれ以外の男性に対しても
主張を前面に出す変容なのだ。
『シャーリイ・ジャクスン』は実在した小説家で、
49歳で夭逝。
長編は未読も
短編は他作家も含めた短編集で読んだ記憶。
日常の中に潜む異質さが滲み出し、居心地を悪くさせる
風変わりな作風との読後感。
本作が彼女の人となりを忠実に再現しているのなら、
そのエキセントリックさが小説にも如実に反映されているのだろう。