アビエイター : インタビュー
ハリウッド黄金期を駆け抜けた“伝説”ハワード・ヒューズの生き様を、圧倒的なスケールで銀幕に甦らせた「アビエイター」。惜しくもアカデミー賞は逃したものの、またひとつ映画史に名を残す傑作を生み出した名匠マーティン・スコセッシ監督のロングインタビューをお届けする。
マーティン・スコセッシ監督インタビュー
「偉大な権力も失墜することがありえるということを認識してほしい」 佐藤睦雄
──なぜ、ハワード・ヒューズの半生を映画化しようと思ったのですか?
「正直言って、私は若い頃のハワード・ヒューズのことをほとんど知らなかった。知っていたことといえば、髪やヒゲや爪を長く伸ばした、エキセントリックで老いた“奇人”ハワード・ヒューズだけだ。だから脚本を読んだとき、若い頃のヒューズが主人公で、彼の心理的、感情的破綻を描いているということに、とても興味を覚えた。
ジョン・ローガンの脚本は、ヒューズの人生のある時期をカットして、エピソードを混ぜ合わせ、フィクションを加えたりして、ヒューズがどんな人物だったかを詳しく説明していた。スピードに取り付かれた夢想家で、若くて、エネルギッシュで、飛ぶことで地球上最速の男を目指し、ハリウッド黄金時代に前代未聞の巨大な映画を作った!
最初読んだ脚本は180ページ、4時間分もあったんだ。短くしたのは、飛行機を開発していくプロセスだ。彼が造ったH-1(ヒューズ・ワン)の前に別の飛行機がもっとたくさんあったんだよ。H-1というのは彼がスピード飛行記録を破る小型飛行機だ。また、クライマックスになる(TWAのライバル)パンナムとの企業間闘争も少し要約したよ。
それで、映画『地獄の天使』を最初にし、上院調査委員会を最後にもってきて、航空産業や米政府について、彼が正しいと思ったことを描く必要があった。彼がどれほどすごいことをしたのか“魅せよう”としたわけだ」
──ハワード・ヒューズは、女性とのロマンスが数多いですよね。
「つき合っていた女性があまりに多すぎた(笑)。ローガンの脚本は賢くて、相手をキャサリン・ヘップバーン1人だけに絞っていた。彼女に他の女優たちを重ね合わせていたんだ。彼女はすごい知性と勇気を持った女優だ。ケイトは彼女の出演作品を見ながら、彼女独特の身ぶりやアクセントをどんどん吸収していった。まさに完璧な演技で、私はまったく演出することがなかったよ。
エバ・ガードナーは、彼が彼女を引っぱたけば、灰皿で殴り返すといった男勝りな女性でね。ドラマ上はそれほど重要な人物じゃないが、親友のような存在だった。彼女は自伝の中で『彼と寝たことは一度もなかった』と断言している。彼らは22年間も友人同士だったらしい。ケイト・ベッキンゼールには、『モガンボ』(ジョン・フォード監督)のエバのようなタフな女性を演じてもらった」