「無頼の生きざま」室町無頼 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
無頼の生きざま
『SHOGUN/将軍』『侍タイムスリッパー』のヒットで、例年以上に熱い視線が注がれた時代劇。
やはり時代劇人気は不滅。だって、日本人だもの。
そんな絶妙のタイミングで、新年の幕開けと共に大作時代劇が公開。
が、週末興行ランキング初登場7位とは侘しいスタート…。
パッと見の題材や話の取っ付き難さの印象はあったかもしれない。
室町時代、武士階級として初めて一揆を起こした牢人、蓮田兵衛。
時代劇でよく時代設定になる戦国時代や江戸時代ではない。室町時代ってどんな時代…?
実在の人物が主人公。知らないと話についていけない…?
一揆など歴史の勉強みたいで堅苦しそう…?
これらに疎くとも見れるが、それでもまだ不安があるのなら、兵衛に預けられた青年・才蔵の成長物語として見るといいだろう。実際原作小説でも彼が実質主人公となっているようだ。
没落武士の子。天涯孤独で、夢も希望も無く、餓死寸前の浮浪児。足軽集団に斬り殺されそうだった所を、兵衛に助けられる。
当初はボロボロ不潔で、礼儀も作法も知らない。無知な猿…と言うより、兵衛に飛び蹴りしようとして、勢い余って池に落ち、“蛙”とあだ名される。
そんな“蛙”が兵衛と彼の剣の師によって心身共に鍛え抜かれていく。
元々剣術の腕はあった。それを見込まれ、厳しい修行。やがて六尺棒を武器にした棒術をマスター。
この修行~成長の模様が少年ジャンプ的。(本当に修行の様子や常人離れした棒術も含め漫画的でもあるけど…)
何より育んでいく兵衛との師弟関係。
兵衛は才蔵に人や漢や武士としての在り方を。
“自分の頭で考えろ”。
才蔵は兵衛に命すら預ける。
目標を持つ。あなたのようになりたい…。
出演した映画/TVドラマどころか、アイドル(なにわ男子)としての活躍もほとんど見た事ない長尾謙杜。
演技や台詞喋りにも拙さを感じるが、それも引っ括めて。一人前になっていく様を体現。
本筋より修行~成長、師弟関係こそ胸熱くさせられた。
勿論史実に沿った兵衛の物語としても見応えあり。
己の剣の腕と才覚で世を渡り歩く自由人。
彼が見据えるのは、この暗い時代の夜明け。
飢饉、疫病、貧困…。村々には惨たらしい死体が転がる。
彼らを苦しめるのは、それらと悪政。
室町時代ってこんなに苦しい時代だったか…? いや、
これは『蜩ノ記』のレビューでも書いたが、我々がよく言う“時代劇”の時代。昔は良かった…なんて言うが、本当にそうか…?
民の暮らしは貧しく、苦しい。今の時代の方がよっぽど恵まれている。
そんな時代、恵まれていたのはほんの一部の上流階級。
今とは比べ物にならぬほどの格差社会。
民一人では何も変えられないかもしれない。
が、皆が集えば…。
率いる“リーダー”がいれば…。
変えられるかもしれない。いや、今こそ変える時だ。
ユーモアとナチュラルさと人柄の良さと抜群の好感度で当代きっての絶好調男、大泉洋。
無骨だが、人情に溢れ、武士や漢として堂々の風格。時代劇出演はあるが、これほどの大掛かり本格殺陣は初めて。
まるで大泉洋が三船敏郎に見える格好良さ。
歴史書にはたった一行しか触れられていない蓮田兵衛を、よくぞここまで魅力的に膨らませたものだ。
彼と対峙する足軽集団の頭、堤真一もいつもながらの存在感。ライバルとして、旧友として、苦渋や悲哀も滲ませる。
二人の殺陣も迫真。
男たちの戦いの中で、高級遊女役の松本若菜の格好いい美しさに見惚れる。
迫真の殺陣、迫力のアクション、スケールのある大合戦…。
壮大なオープン・セットにロケーション…。
インディーズからメジャーシーンへ。今や幅広いジャンルを手掛け、昨年も『あんのこと』が話題になった入江悠監督が、クロサワ級の時代劇大作を手掛けるまでになるとは…。
作風もクロサワ時代劇のような娯楽大活劇を彷彿。
と同時に、マカロニ・ウエスタンのような漂いも。
雰囲気や設定もだけど、モリコーネ風の音楽も流れたりして、確実にマカロニ・ウエスタンは意識。でも、音楽が作風に合ってるような、ないような…。
クライマックス最大のカタルシスの一揆ももうちょっと尺あっても良かったような…。
全体的に細かい難点多々あるが、失われぬ時代劇熱漲る娯楽大活劇。
が、ただそれだけじゃない。
自由を求める風来坊。
根無し草のように思え、民や世を思う。
弱きを見れば助け、悪事を砕く。
武士として人としての信念。教え。
それは多くを動かし、後に続く。
誇り高き姿と心は継がれていく。
無頼の生きざまにしびれろ。