「「令和無頼」で立ち上がる時です!」室町無頼 クニオさんの映画レビュー(感想・評価)
「令和無頼」で立ち上がる時です!
2024年邦画の私的ベストワンである「あんのこと」の監督さんですので、先行IMAXにて鑑賞しました、東映初の実写IMAXってのも気になって。東映がそうさせる程に驚くほどのエキストラを動員しての一揆シーンが圧巻です。スタジオ撮影は少なめで、広大なオープンセットに展開され躍動感が半端ない。腐敗社会の混沌に現れるヒーローの大活躍、この面白さの根底は簡単に言えばマカロニウエスタンなのです。主人公・蓮田兵衛はそのまんまクリント・イーストウッド、だからエンニオ・モリコーネさながらエレキ・ギター主体の音楽が派手に鳴り響く。
物語は、自らの保身にしか興味がない腐敗した為政者に喘ぐ人民の怒りをまとめ上げ、権力に反旗を翻すヒーロー誕生です。数多の英雄映画がそうであるように、蓮田兵衛1人ではなく必然として子分を引き連れる。それが青二才の才蔵であり、さらに3牢人のプロフェショナルの存在となる。対する敵は足利幕府なのは当然ですが、主人公と同じ境遇だったはずの骨皮道賢達は、傭兵として雇われの身ゆえに一揆を阻止せざるを得ない。この辺りの設定がポイントでしょう。
冒頭から累々たる死体が無限に横たわる絶望風景から始まる。権力側の役人達の無慈悲が執拗に描かれ、税金を搾り取る場所としての関所の欺瞞等により、民衆そして観客の怒りを熟成する作劇。登場するのは当然にヒーローであり、イケメン・トップ男優が担うポジション。そこへコメディアンの色濃い大泉洋が、実にここではかっこいいのです。彼がイケメン範疇か否かはさておき、普段の軽いおちゃらけを封印し、敢えてとことんキザに振る舞う事が本作の屋台骨なんですから。よくぞ彼にキャスティングしたもので、鈴木亮平でも、岡田准一でも、阿部寛でもよかったでしょうけれど、その冒険が功を奏した。
青二才役の長尾謙杜は儲け役で、前半と後編の成長ぶりを明確に示す事が出来た。アイドルの1人とは知りませんでしたが、ロッキーさながらのハード訓練での貧相な褌姿に果敢に挑んだ成果は画面にしっかりと刻まれている。ただ、仕込む側の柄本明はともかく、あとの2人の男女のキャラが薄い描写で、逆に苦闘が軽く見えてしまった。3牢人もそれぞれの悲惨な過去をワンシーンでも描いていれば、観客の感情移入が成り立ったのに。まるで女性が少ない中、遊女に扮した松本若菜の色香は圧巻でしたが、如何せん主軸の物語に関わりが希薄すぎた、勿体ない、実に。
対する道賢役の堤真一は安定の重鎮ぶりですが、傭兵としての立ち位置に反逆の本音を匂わせてくれれば第一級の作品となれたのに。なにより諸悪の根源たる足利幕府の醜態を北村一輝だけに集約せず、足利義政役の中村蒼に青白い公家の世間知らずぶりを体現させるべきでした。総じて土埃たっぷりな民衆画面に、煌びやかな異次元世界を描けば否応なく矛盾を感じ取ってもらえたのに、惜しい。
もとより多分時代劇は初めての入江監督にとって壮大なチャレンジだったでしょう。これ程のモブシーンをよくぞ描き切れたもので、東映京都の底力あっての賜物でしょう。でも、もろもろ人物のキャラが薄く、シークエンスとシークエンスの間に時間の流れを匂わすカットもなく、脚本の練り込みも弱いと感じたのは確かです。黒澤明はまだまだ遥かに高い山でした。
ただ、このシチュエーションは現在日本の置かれた厳しい現実と重なり、だからこそ本作を製作する意義はあったはず。エンターテインメントではあるけれど、政治的問題を忍び込ませ観客の留飲をさげるのもまた映画の役割です。その意味で重税感半端なく忍び寄る困窮に焦る現在、裏金づくりに奔走する為政者どもに鉄槌を下す必要がありましょう。無頼とは人に頼らず突き進む意味です、人任せにせず私達自ら声を挙げる時だと、本作観てつくづく思います。「令和無頼」を実現したいものです。