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映画レビュー
失われゆく日本の原風景、時を経て自然に還らんとするものたちを、いつくしむような眼差しが好ましい
「孤高の映像作家 坪川拓史監督特集上映」を前に、この長編初監督作を観る機会を得た。北海道長万部町出身の監督が、取り壊しが決まった地元の映画館、長万部劇場の姿を撮影するため1996年に16ミリフィルムで制作を開始し、9年の歳月をかけ完成させたという。何世代もの人々の喜怒哀楽が染みついたかのような古い建物、失われゆく伝統文化、消えゆく手つかずの自然といった坪川作品を特徴づけるモチーフたちがこのデビュー作で有機的に紡がれていることを、のちの作品群と併せて鑑賞することで改めて気づかされる。
イタリア映画「ニュー・シネマ・パラダイス」、ユーゴスラビアを舞台にした「アンダーグラウンド」、中国映画「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」などを思い出した。ノスタルジーを喚起する美と人生を映像に収めようとする心は世界共通だ。坪川監督の全作品に出演したという小松政夫が演じる活動弁士の口上も味わい深い。
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届けられなかったフィルム
坪川拓史監督「美式天然」届けられなかったフィルムを巡る、2つの時代と無声映画が交錯する物語。劇中楽団の切なくて暖かい美しき天然が繰り返し演奏される中ストーリーは展開。ノスタルジックでありながら、過去を引きずる人たちを肯定し、背中を静かに押してくれる作品でした。
そして、この映画自体が、完成から紆余曲折を経て、19年後に正式上映という、もうひとつの届けられなかったフィルムでもあります。近くの劇場に美しき天然とともにこのフィルムが届けられたら、ぜひ観てください。