劇場公開日 2024年12月13日

不思議の国のシドニ : インタビュー

2024年12月13日更新

イザベル・ユペール「謎が残っているからこそ想像力が働く」 日本で撮影の愛と再生の物語、意外性あるラブシーンにも言及

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フランスの名優イザベル・ユペールが主演し、日本でロケを行った映画「不思議の国のシドニ」が12月13日に公開となる。喪失感を抱えるフランス人作家シドニが初めて日本を訪れ、伊原剛志が演じる編集者の溝口とともに各地を旅することで、シドニの心が再生していく様を美しい映像とともに繊細に描いた作品だ。これまでに幾度となく来日し、2021年第34回東京国際映画祭のコンペティション国際審査委員長も務めるなど、日本とはゆかりの深いユペールに話を聞いた。

※本記事には作品のネタバレとなる記述があります。


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<あらすじ>
フランスの女性作家シドニは、自身のデビュー小説「影」が日本で再販されることになり、出版社に招かれて訪日することに。見知らぬ土地への不安を感じながらも日本に到着した彼女は、寡黙な編集者・溝口健三に出迎えられる。シドニは記者会見で、自分が家族を亡くし天涯孤独であること、喪失の闇から救い出してくれた夫のおかげで「影」を執筆できたことなどを語る。溝口に案内され、日本の読者と対話しながら各地を巡るシドニの前に、亡き夫アントワーヌの幽霊が姿を現す。

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――エリーズ・ジラールが監督を務めた本作は、長編デビュー作「ベルヴィル・トーキョー」(2013)のプロモーションで初来日した経験が、構想のきっかけだとジラール監督は明かしています。ジラール監督の実体験や日本への個人的な思い入れも、シドニという主人公の役作りに反映させたのでしょうか?

ユペール:私は日本で撮影されるということよりも、シドニが遠い国で、自分を見失っていたものをもう一度再発見するというテーマに惹かれました。もちろんエリーズの体験が基になっているのでしょうが、やっぱりその場所が(フランスに近い)スイスなどではなくて、遠い日本というのが、邦題にもある“不思議の国”というイメージに重なると思います。ですから、私はエリーズから、この題材で映画を作ろうと決めた彼女の経験や動機は敢えて聞かなかったのです。謎が残っているからこそ想像力が働くし、私の自由に演じられると思ったのです。

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――あなたは長年のキャリアで国際的に活躍し、アジアではフィリピンのブリランテ・メンドーサ監督、韓国のホン・サンス監督の作品にも出演しています。日本での撮影経験はどのようなものになりましたか?

どんな国で撮影する際も、私は女優として現場に呼ばれて、監督が撮りたいカットのために演技をする。そういう形で映画に参加するので、どんな国でも違いはあまり感じないのです。フランスで撮っていても、監督やストーリーによって、撮影の仕方は変わってきますから、俳優の私はそれに順応するだけです。ですから、日本でもどこの国の現場においても、気詰まりだとか不快に感じるようなことはなく、いつでも未知のものに臨む、そんな心持ちでいます。

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――今回、初めて劇映画で直島が映され、京都・奈良など観光地としても有名な場所でも、日本人が知っているようで知らない数々のスポットを発見できる作品です。

ああいう映像が撮れたことはコロナ禍の影響でもあるんです。どこに行っても観光客がいない時期でしたから。直島はフランス人にも人気の場所のようですが、それは現代アートに通じている人くらいで、私はエリーズから聞いて、初めて知った場所でした。そして、観光客がいなかったおかげで撮れた静かで美しいシーンがたくさんあります。また、私が2021年に東京国際映画祭で審査委員長を務めたときも、外国人の個人的な入国は禁止されていた時期でした。そういった意味でも、ちょっと特別な待遇で入国させていただき、私はコロナ禍ならではの日本を経験した気がします。

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――あなたが演じるシドニと、伊原剛志さんが演じる溝口との距離がだんだん近くなっていく繊細な描写、またシドニの亡き夫が幽霊として出現するシーンは「雨月物語」などを思い出し、まるで日本映画のようでした。

この映画はすでにフランスで公開されて、あなたが仰る通り「日本的な映画」だと批評に書かれたこともありました。もちろん、醸し出す空気感や感性が日本的な部分もあるかもしれませんが、あくまでもフランスの女性が見た日本という視点で描かれていると思います。

シドニと溝口という、本当だったら出会わないようなふたりが出会う物語であり、カップルとしては背が高い彼と小柄な私、そういう違いにもフォーカスしながら、文化も住んでいる場所も全く違うふたりが出会う、そのアイデア自体がとても面白いと思いました。そして、ふたりは感性の部分でとても近しいものを感じて惹かれ合う。それはとても自然なことだと思います。

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――後半のラブシーンは、マルグリット・デュラスの「ヒロシマ・モナムール」をアラン・レネ監督が映画化した「二十四時間の情事」を想起させるような、美しいものでした。

あのシーンの撮り方は、脚本には書かれていませんでした。実際に見た方は、ちょっと意外性を感じると思うのですが、戸惑いはないでしょう。どちらかというと、生々しいラブシーンが動画として流される方が観客は戸惑いを感じると思うのです。ラブシーンをスクリーンで映像化するのは、とても難しいことです。ですから、今回は新鮮な感覚を持ってあのシーンを見ていただけるのではないでしょうか。リアリスティックなものからやや逸脱して、シュールな部分があるのです。本当にふたりの間に起こったことなのだろうか――そんなことも観客に問いかけるような、曖昧さをあえて残しています。また、時間についても、本当に彼女の初めての滞在中に起きたことかどうかも明確に示されていませんよね。非時間性のような、ペンディングされたような表現が私はとても気に入ってます。

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