ネタバレ! クリックして本文を読む
アナ・ケンドリックが映画監督デビュー。
シリアスもコメディも出来(特にコメディでは魅力たっぷり)、歌もダンスもイケる。
そんなキュートな彼女の事だから、明るく楽しくハッピーな作品かと思いきや、何とサスペンス。しかも、実話が基。
これがなかなか衝撃的…!
1970年代のハリウッド。
スターを夢見る新人女優シェリルは、たくさんのオーディションを受けるも落ちてばかり。そんな時、あるオファーが。
人気TV番組への出演。ゲストの女性が壁越しの3人の男性とトークや質問をし、一人を選ぶ。選んだ男性と対面し、デート旅行が成立。
女優で成功したいシェリルにとってあまり望まぬ仕事ではあるが、名を売る為。渋々出演。
番組が用意した単調で下らない質問をするだけ。MCも人気者だが男性上位。
しかしシェリルは周りの女性スタッフのアドバイスを受け、台本に無いやり取りを始める。
MCは不愉快な顔をするが、番組は大盛り上がり。大卒のシェリル。質問は切れ味抜群で、男たちはたじたじ。
1番の男は、穏やかそうだが頭が鈍い。
2番の男は、ノリはいいが女性を“色物”にしか見てないチャラ男。
3番の男は、シェリルの鋭い質問にも見事に受け答える。
勿論選ばれたのは3番の男。テキサスから来たロドニー。見た目はワイルドだが、頭も性格も良さそう。
収録後、早速飲みに行く事になった二人だが…。
収録中、観客席の一人の女性がロドニーを見て恐怖におののく。
番組側に訴え。
私の友人があの男にレイプされ、殺された。
あの男は殺人鬼よ…!
そう。ロドニーは実在した、多くの女性を殺した連続殺人犯だった…!
これが実話とは本当に驚く。
ロドニーがTV番組に出演したのも本当。
連続殺人鬼がTVに…? あり得ないとまず思うが、ロドニーの犯行や事件はほとんど知られていなかった。ロドニーの人相も。
その手口は、カメラを手にモデルになって欲しいと近付く。意気投合した時…。
ロドニーの新たなターゲットはシェリル。
シェリルはロドニーの魔の手に掛かってしまうのか…?
勿論スリルも充分だが、ただの犯罪サスペンスの型にハマらないのがミソ。
初監督とは思えないアナの卓越した手腕が光る。
まず、題材の衝撃さや面白さ。エンタメ性もそつなく。
1960年代後半から1970年代と言えば“ゾディアック事件”も発生。不穏な雰囲気も醸し出す。
ハリウッドのエンタメ業界で新人女優が…と言うと、“シャロン・テート事件”を彷彿。ロマン・ポランスキーの名も出、全くの無意識ではないだろう。
メインはデート番組だが、少し過去に遡って何人かの被害に遭った女性たちの視点からも。群像劇スタイルでもある凝った作り。
LAの陽と陰。光と闇の使い方も巧い。これには感嘆。
収録後、バーで軽く初デート。いい雰囲気だったのが…。ロドニーの異様さが表れてくる。平静を装いながら対するシェリル。その緊迫感。
キュートだけじゃない。オスカーノミネート経験もあるアナの実力。
第一印象から徐々に豹変。ダニエル・ゾバットの存在感。
しかし、監督アナが描きたかったのは、もっと切実なもの。
開幕シーンの二人の男がシェリルについて。
もうここだけで分かる。
1970年代。まだまだ女性の地位が軽視されていた時代。
象徴的なシーン。ロドニーの正体に気付いた観客席の女性が番組や警察に訴えるが、信じて貰えない。相手にもしてくれない。
ロドニーの犯行が世間に知られなかったのも、これが原因。
女性が声を上げても誰も問題にしない。聞く耳持たない。
そのせいで、多くの女性が…。被害に遭った女性は8人とされているが、実際は130人以上とも…!
EDでまた衝撃の事実。一度遂に逮捕されるも、裁判を待つ間保釈。その間、さらに犯行を重ね…。
女性の存在が軽んじられ、凄惨な魔手に…。
が、ロドニー逮捕に繋がったのも、一人の少女の行動であった…。
10代の家出少女。
ロドニーにレイプされるも、誰にも言わないで。
少なからずシンパシーを見せかけ、信用させた所で、密かに通報。
ロドニーの犯行が暴かれた。いや、男の悪行を女性が阻んだ。
シェリルは魔の手を逃れたが、被害に遭った女性たち…。
彼女たちの無念を。
フェミニズムを訴え、エンタメ性も。
キュートだけじゃない。非凡な才能を魅せてくれた。
まさに、アナ・オブ・ジ・アワー!
女優としては勿論、次の監督作にも期待!