劇場公開日 2025年5月9日

「緊急事態宣言時代の巣篭りを思い出す」季節はこのまま 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0緊急事態宣言時代の巣篭りを思い出す

2025年5月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2020年4月、コロナ禍に陥ったフランスの片田舎を描いたお話でした。先日観た「未完成の映画」も、同じくコロナ禍初期を描いた作品でしたが、新型コロナの震源地と言われた中国・武漢の近くを舞台にした「未完成の映画」と比べると、遠くヨーロッパの片田舎を舞台にした話とでは、内容も印象も全く異なる作品に仕上がっていました。

内容的には、成人してから別々に暮らしていた兄・ポール(バンサン・マケーニュ)と弟・エティエンヌ(ミーシャ・レスコ)兄弟が、それぞれの恋人モルガン(ナイン・ドゥルソ)とキャロル(ノラ・ハムザウィ)を伴って、コロナによるロックダウンの期間を田舎にある実家で過ごす時間を描いていました。
コロナ恐怖症に陥り、必要以上に神経質なポールと、そこまで尖っていないキャロルは、時に喧嘩をしながらも、恋人との時間を楽しんでいる様子。この辺の気持ちは、緊急事態宣言が発出され、世間の動きがほぼ止まった日本においても味わったことで、コロナは怖いけど仕事や学校が休みになったり、自宅勤務やリモート授業に切り替わって自宅に巣篭った時期のことを懐かしく思い出しました。登場人物たちも、通常の生活に戻ることを望みながらも、この”季節”が”このまま”続いて欲しいと思う気持ちあるというアンビバレントが、非常に上手く描かれていて、共感すること仕切りでした。

内容とは関係のない話ですが、枕草子や源氏物語が会話に出てきたり、石庭の飛び石の話がナレーションに出てきたり、はたまた主人公たちがプリウスやカローラに乗っていたりと、日本に話題や物が端々に登場したので、この点で何となく親しみを感じた作品でもありました。特に枕草子とか源氏物語というのが、フランスのスノビッシュな会話の道具として使われているらしいことが感じられ、微笑ましくもありました。まあ内容には関係ないんですが。

いずれにしても、人類存亡の危機と思われたコロナ禍を振り返る作品として、「未完成の映画」とは全く対照的なお話でしたが、いずれも非常に興味深い作品に巡り合うことが出来、満足出来ました。

そんな訳で、本作の評価は★4.0とします。

鶏