「現代に語られがちなテーマを極端に示す「A24らしい」攻めの作品」顔を捨てた男 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
現代に語られがちなテーマを極端に示す「A24らしい」攻めの作品
本作における演技が評価され、第74回ベルリン国際映画祭銀熊賞(主演俳優賞)と第82回ゴールデングローブ賞最優秀主演男優賞に輝いたセバスチャン・スタン。続く第97回アカデミー賞においても『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』で主演男優賞にノミネートされており、大変に好調なキャリアを積んでいて見逃すわけにいかず、サービスデイのヒューマントラストシネマ有楽町にて鑑賞です。
顔に出来た腫瘍が大変に悪化し、自身の視野を遮るほどに奇形に腫れあがったエドワード(セバスチャン・スタン)の顔は、周囲を思わず戸惑わせるレベル。その為、普段から無遠慮な視線に晒されたり、不必要に絡まれたりが茶飯事と感じている彼は、極力に他人との関係を避け、常にビクビクしながら生活しています。手の施しようがない病状に、医師はいよいよ「新薬」の試用を提案しますが、副作用を怖がって消極的な姿勢を崩さないエドワード。ところがある日、引っ越してきたばかりの隣人・イングリッド(レナーテ・レインスベ)はチャーミングで人懐っこく、頑なだったエドワードさえも「可能性」に賭けてみたくさせるような存在。と言うことで、意を決して治験を受けることとなるエドワードですが、医師ですら想像を超える劇的効果の結果、「違う顔」を手に入れることになった彼は密かに過去の自分と決別し、“ガイ”と名乗って生き直しを始めます。ところが、イングリッドとの「一方的」な再会をきっかけに、過去の自分を彷彿させる容姿のオズワルド(アダム・ピアソン)の出現など、結局は「過去の自分“エドワード”」に縛られ続けるガイの人生はその後、思わぬ展開が待ち受けています。
ルッキズムをベースに、相手、或いは自分自身に対するアンコンシャス・バイアスが「より極端な形」で描かれる本作。売れない役者だったエドワード自身、このテーマを啓蒙するための「企業向けトレーニングビデオ」に出演していますが、その制作現場での立場を見れば、結局都合に合わせて「消費」されているだけの存在です。
ところが、突如現れる「気になる存在」の出現に浮足立つエドワード。相手に対し自分を如何に良く見せようかと数少ない手札を切り始めますが、そもそも社交性とは対極にいた彼は、自身の「突然変異」が功を奏して俄かにモテ始めるものの、デビューが遅くて下地のない彼はいつまでも自我を捨てきれない「中二病」。更には、そんな自分を形成することの「言い訳」で「防波堤」でもある過去の容姿を、真っ向から否定するオズワルドと言う存在は、本作最大の意地悪さを感じる決定的なアイロニー。最早二の句が継げないほどの突き放し方に、観ているこちらも大変に居心地の悪さを感じます。
本作もまた「A24らしさ」溢れる作品性で、一般的に言う面白さとはそもそも角度が違いますし、観る人によっては「全く刺さらない」或いは「深く刺さり過ぎて辛い」など、賛否両論にまちまちな評価もやむを得ないと思います。かく言う私も正直どう評価をつけるか困りましたが、衝撃的な特殊メイクと、容赦ないアンチテーゼで語るメッセージ、そして難しい役どころを見事に演じるスタンの凄みなど、見どころは多いと思います。
