韓国や台湾の映画に比べると日本公開される機会が少ないタイ映画だが、格闘アクション映画がちょっとしたブームになった2000年代の後は、数年に1本のペースで掘り出し物に出会える印象。比較的近年の作が「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」(2018年日本公開)で、この「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」も観客の記憶に長く残りそうな珠玉作だ。
一卵性双生児(あるいは三つ子以上)と異性の恋愛物というのは漫画やアニメではよくある設定だが、実写作品でなかなか見当たらないのはまず第一に、想定されるキャラクターに適した演者たちを配役することが困難だからだろう。テレビドラマやMVを手がけたのち本作で長編劇映画デビューを果たしたタイの双子姉妹監督ワンウェーウ&ウェーウワン・ホンウィワットは、当初本当の双子を探していたが、Facebookで見つけたティティヤー・ジラポーンシンを主役に抜擢、合成を使って二役を演じさせることに決めた。
ティティヤーは2005年生まれの中華系タイ人。本国公開は2023年なので、撮影当時は16歳か17歳頃だろうか。これが初の映画出演だそうだが、双子のわずかな性格の違いや感情のすれ違いをうまく演じ分けていて、姉妹監督による演出も的確。バイクの3人乗りのシーンはさすがに背景の合成がバレバレだが(危険な3人乗りを未成年の演者たちに実演させるわけにはいかなかっただろう)、それ以外の部分では合成とスタンドインの女優を入れた切り返しショットを巧みに使い分けてほぼ違和感なく仕上げている(例外は前髪を切った後のウィッグ。髪切って毛量増えとる、と心の中で突っ込んだが、実際のところは二役なので“一人だけ髪を切る”のが不可能だったからですね)。
日本の同年代に比べるとかなり純朴そうに見えるユーとミーだが、MV風に音楽に合わせカメラ目線で踊るシーンでは、大胆に肩を露出した衣装も相まって急に大人びて見えてどきっとした。配給会社リアリーライクフィルムズのサイトにアップされたビデオメッセージに映った最近のティティヤーは、メイクや髪型の違いもあって一層大人っぽくなっている。彼女の次回作も日本公開されるよう期待する。また、タイには女性監督自体が少ないそうで、ホンウィワット双子姉妹の今後の活躍にも大いに期待したい。
コンピューターの2000年問題やノストラダムスの大予言など、20世紀末の時代感は日本でもタイでもあまり変わらなかったんだなと感じるし、地方の暮らしへの郷愁を感じさせるのは台湾映画などにも通じるアジア共通の感性という気もする。一方で、女の子たちの“野ション”があったり、初潮が割とさらっと描かれていたりして、そうしたデリケートな要素についての感覚については日本と若干の違いに気づかされる場面も。いろいろ含め、淡い恋愛と十代の成長を描く愛らしい映画であり、多くの観客に届いたらいいなと願う。