アイアンクローのレビュー・感想・評価
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マッチョイズムの美しさと苦しさ
史実を元にした映画ということで、フォン・エリック・ファミリーのwikipediaを読んでから見に行きました。物語の理解に必要なことはちゃんと映画の中で説明してくれるので不要ではありましたが、心の準備という意味では読んでおいてよかったと思います。
プロレスの試合そのものよりもフォン・エリック・ファミリーの家族のやりとりを中心に描いているので、プロレスの知識がない方でも楽しめる作品だと思います。もちろんプロレスの知識があるとより楽しる要素もいっぱいあります。
物語としては、プロレスで成功するため、家族の期待に答えるため、強い男であるため、精一杯に努力したり助け合ったりする美しさは描きつつも、様々な不運に見舞われて苦しむ中で、いわゆる男らしさ、マッチョイズムとどのように折り合いをつけるかを模索する話だと思いました。
キャストの方々の肉体美や迫力のプロレスシーンだけでも迫力がありますが、それらを期待して見に行くには内容が暗いので見るときの気分を選ぶ作品だとは思います。
何故クリスがいない?
ケビンと共に絶望と希望を見出せる
Live That Way Forever
実話ならでは
なぜ5人の兄弟のうち4人が亡くなったのか
タイトルのアイアンクローは巨大な手で相手の頭を鷲掴みにしてギブアップを狙うプロレスの必殺技の名前だ。
この技を生み出したのが日本でも活躍したレスラー、フリッツ・フォン・エリック。
レスラーの名前は覚えていないが、子供の頃のプロレスごっこで相手の頭を掴みアイアンクロー、と言っていたのは覚えているので当時流行ったのだろう。
この映画はそのフリッツ・フォン・エリック一家の実話を映画化したものだ。
一家の話は全く知らなかったが、5人の息子たちがいて、4人がプロレスラー。
しかも4人が病気や自殺で亡くなっているというのだから驚きだ。
唯一の存命した次男のケビン(ザック・エフロン)を主役に一家の壮絶な運命を描いているのがこの映画だ。
A24製作で実話の伝記というのは珍しいが、ストレートな家族愛の物語でも、プロレスのスポコン物でもないジャンルの枠を超えているところがA24らしい。
ただ、プロレスシーンのほぼスタントマンなしでザック・エフロンがむきむきに鍛え上げた肉体でぶつかり合う迫力の映像はエンタメとしてそれだけで見る価値があるし、
ケビンが次々家族を失うことの苦しみとそれでも新しい自分の家族を育んでいこうとする慈愛の心は見るものの心を打つ。
題材がマニアックなプロレスではなくボクシングや野球などだったらもっと大ヒットしたのではないだろうか。それくらい完成度は高い。
まあ、この題材がA24の真骨頂でもあるのだが・・
主題が家族愛であることは紛れもないことだが、視点を変えて興味深いのは、なぜ、5人の兄弟で4人が亡くなってしまったのかだ。
この一家のことは「呪われた一家」などというフレーズで言われることがあるというが、どちらかというとそのほうがA24らしい「悪霊」の呪いではもちろん無い。
この映画を見て思った一つの原因は父親の変質的なほどのプロレスへの執着だ。
時代背景もあるだろうがある意味子供たちを支配している。
父親への返事は字幕では「はい」だがセリフではYES SIRと言っている。
今の時代父親の夢を子供へ託すのはありえないが、プロレスの道へ進むのは一家の掟のように見える。
子供達がプロレスの道に進まなければ死ぬことはなかったのではないか。
たらればの話だから意味はないのだが。
終盤のケビンと家族の描き方が救い。
生き残ったケビンの一家は呪われることもなく、大家族だそうだ。
兄弟愛に涙したけど。
プロレス一家の稀有な悲劇の連鎖
知らなかった悲劇
スキャンダラスさやホラーテイストに描く案を乗り越えて、家族愛と最後に呪いから解放される結末に好感が持てました。
●はじめに
アイアンクロー(鉄の爪)を得意技とし、1960~70年代に活躍したアメリカの伝説的なプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックを父に持ち、その教えに従ってプロレスの道を選び、世界ヘビー級王者になることを宿命づけられた兄弟の実話を、次男ケビンの視点から描いた作品です。
思い返すと昭和の時代、プロレスはいかにも米国的なショーでした。強い個性を持ったマッチョな男たちが、力と技を競いあったのです。
この映画の主人公は、前途したようにプロレス一家、フォン・エリック家の男たち。闘う男たちの栄光と挫折の軌跡に、アメリカンドリームの呪縛と末路が浮かび上がります。 それと同時に、悲劇の連続の中で絆を深める一家の家族愛も描かれます。
●ストーリー
1980年初頭。「鉄の爪(アイアンクロー)」を必殺技に活躍した元AWA世界ヘビー級王者の父フリッツ(ホルト・マッキャラニー)は、引退後に自分でプロレス団体を作ります。息子たちをレスラーにして、「世界制覇」を目指していました。
早くに長男を亡くした彼は、次男のケビン(ザック・エプロン)、続いて三男デビッド(ハリス・ディキンソン)が人気を博し、米国のボイコットで五輪出場を逃した四男ケリー (ジェレミー・アレン・ホワイト)も加わって、3兄弟として売り出し、最強のプロレス一家を作り上げようとしていたのです。
父の教えはファミリーにとって絶対でした。チャンピオンになれ!そのために筋肉を鍛え、痛みを鎮痛剤で抑え、筋肉を維持するためにステロイド剤を打ち、高揚させるためにコカインを吸ったのです。
その中で、華のある弟らに人気が集中し、父の期待が自分から弟たちに移っていることにケビンは気きます。嫉妬を抑えながら健気に弟たちを支えるケビンの心の拠り所は恋人のパム(リリー・ジェームズ)だけでした。パムの妊娠を期に、二人は家族に祝福されながら結婚。そんな中、一家の念願であったNWA世界ヘビー級タイトルマッチを控えたデビッドが急死してしまいます。さらにケリーが不慮の事故に見舞われ、片足を切断。リングデビューした五男マイク(スタンリー・シモンズ)も試合中の負傷から後遺症を患ってしまうのです。
相次ぐ悲劇の連続で、世間はエリック一家を“呪われた一族”と暗に噂するようになります。兄弟のなかで唯一生き残ったケビンは、ある決断をし、父と決別。呪いから逃れた先にどんな景色が開けるのでしょうか。暗い闇の向こう側には、美しい陽光が確かに映っていたのです。
●解説
一家はアメリカの理想を体現していました。父親を中心に固く結束、息子たちは指示通りに体を鍛え、レスラーとなりチャンピオンを目指す。良妻賢母の母親、あつい信仰心。成功をつかむために努力と献身を惜しみません。
物語はケビンの目から描かれます。長男を早くに亡くし、兄弟の最年長として率先して父親の期待に応えようとするのに、弟たちに後れをとってしまうのです。不満をのみ込み黙々と努力しても、父から認められなかったのです。
ところが四男のデビッドがこれからという時に日本で客死、三男のケリーは念願のチャンピオンになった直後に事故で片足を失います。代わりに音楽家を目指していた五男マイクがリングに上がるものの、試合中のけがに苦しみ、非業な最期を遂げます。後に「フォン・エリックの呪い」と言われた不幸のつるべ打ちとなっていったのでした。
米国が求める美徳を満たし、栄光を夢見た一家がなぜ不幸になるのか。父権の幻想にすがりアメリカンドリームを追う一家は痛々しく、もの悲しさすら漂いました。そこから解放された終幕には、ようやく肩の力が抜けることでしょう。
別人と見まごうほど肉体を鍛えたエプロンに驚かされることでしょう。俳優陣がほぼスタントなしで、リング上で激しくぶつかりあいます。そんな試合場面の迫力もすさまじいのです。リング上の熱演とフィルム撮影で再現した80年代の映像を見るだけでも価値があります。
しかしカメラは、リングの裏で起きつつある恐ろしい何かを捉えようとするのです。背景にあるのは、父の夢。誰よりも強くなり、大きな成功を遂げたい。父の夢は呪いとなり、息子たちを薬漬けに追い込み、内面から破壊してしまいます。
当初はスキャンダラスさやホラーテイストに描く案もあったそうですが、フォン・エリックー家に起きた出来事を悲しみに満ちた叙事詩として描くことで、有害な男らしさを批判し、家父長制によるパワハラの醜悪さを暴く展開となりました。昨今のトレンドともいえるテーマを扱いつつ、一方で、ダーキン監督は否応なく共同体に属さざるを得なかった者たちの生を丁寧に掬い上げています。兄弟が互いにかける親密な愛情に光をあてて彼らが見つめた一瞬の煌めきを捉えたのでした。
●感想
子供の頃、よくテレビの中継を見ました。スタン・ハンセン、トリー・ファンク・ジュニアとデリー・ファンクの兄弟、ディック・マードック。そして、この映画のエリックー家。テキサス州出身で、日本でも活躍したのです。テキサスといえば腕っぷしの強い荒くれ者、男らしさの象徴でした。それは力を誇示するアメリカのイメージそのものといえます。神経質な小心者がしゃべりまくるウディ・アレンが印象的なニューヨークと対局的です。
そして、昭和のプロレスファンなら誰もがやんちゃな少年時代にまねしたアイアンクロー。本作を見ると、懐かしの必殺技が若き兄弟たちの心をむしばむ“呪縛”の象徴に思えてきました。
そんな展開に、興奮、感動し、怒りや恐怖も覚え、悲しくなりました。プロレスに明るくない人でも、感情を揺さぶられること間違いなしの、“呪われた一族”のドラマなんですね。
心理スリラー「マーサ、あるいはマージー・メイ」で知られるダーキン監督も子供の頃はプロレス狂たったそうで、前途したようにハーリー・レイスやリッタ・フレアーらが登場する1980年代プロレスの再現度の高さがすごいのです。
35ミリフィルムの陰影豊かな映像、家父長制の問題などを現代的視点で捉えたドラマも含め、まさにヘビー級の見応えです。
古い価値観の打破、苦しみへの寄り添い方。一昔前のスポーツ一家の話が、これほど現代に通ずるメッセージをはらむとは!脚本も手がけたショーン・ダーキン監督の手腕にうならされました。
呪われてると言うよりも
パストライブスを観た翌日は2日連続のA24作品で、まさかファイティング・ファミリー的な家族愛や兄弟の絆の話?かと思いきや、アイアンクローで頭押さえつけられてんのは誰かって話で…。
前半はスポ根オヤジに忠実な四兄弟のわちゃわちゃなかよし加減が楽しい分、哀しい未来が待っているのがツラい。バイクと銃とか伏線がわかりやすすぎだが、Inspired by the true storyで脚色多めにしても事実ならしょうがない。プロレスの格闘シーンはリアリティがあって楽しめたけど、パムがプロレスの微妙なところを突いてくる発言には笑った。
実質長兄ケビンのムキムキボディと顔かたちが、ザック・エフロンなんかヤバいものやってんのか?レベルの変貌ぶりですごいのだが、マッチョな肉体とは裏腹に心やさしくオクテな性格が微笑ましく、パム役リリー・ジェームズに誘ってもらってカーSEXで童貞喪失とは、担任高校教師に女を教わる俺の空・安田一平級のうらやましさだった(各論)。
凄いマッスル
事実の一部を描くのだが、どこまでをリアルに、どこに映画的な演出を付けるのか? のバランスが素晴しくてラストシーンが良い。
父親フリッツ・フォン・エリックは「プロレスラーになれ」とは言わなかったらしい。だがそれ以外の選択肢が無い位にレスリング技術を仕込んで育てて来た。母親のドリスは信仰心で子供たちを教育。
その実在した6人の息子たち。
①長男 ジャックJr:6歳で、切れた電線に触り感電して水溜りで溺死
②次男 ケビン:呪いから脱したのか御存命で子沢山
③三男デビッド:活躍したが25歳で日本のホテルで死亡、急性肝炎と報じられた
④四男 ケリー:バイクで事故後も足の完治前に試合出場して悪化した為に切断、義足を隠して対戦していた、コカインに溺れて拳銃自殺
⑤五男 マイク:高校生で肩を痛めてレスラーを断念、しかしデビッドの後釜試合事故の手術後にバクテリア増殖で後遺症が残り、その後睡眠薬過剰摂取で死亡
⑥六男 クリス:末っ子もプロレスラーに憧れてデビューしたが喘息がち、試合で
両腕骨折、骨粗鬆症に悩みその後自殺
ショーン・ダーキン監督は「これ以上の悲劇に観客は耐えれないだろう」と六男クリスは描かなかったと言う。
ラストのケビンの涙シーンが良かったが、その後リアル写真での赤ちゃんの「高い高い」が尋常じゃない高さなので引いてしまった。
呪いからの脱出
プロレスは嫌いじゃないにせよ、フォン・エリック一家のことはほとんど知らなかった。『フォックスキャッチャー』のような秘話が観れるのかと思ったが充実した映画だったのは間違いない。
タイトルは栄光の代名詞ではなく呪いの意味だったんですね。どっぷり感情を引っ張ることはなく、みんなが少しつづ不吉や影を持ちながら崩壊していく小さな帝国。実話です、と言われなければ意味も意図もわからない不幸が突然やってくる。なので作劇的な緊密度というか面白さはあんまりない。ましてや何かしましたか〜という呪われる意味すらない。意味がないから名前を変えてみることしか対抗策がないし、この不幸からの解放はプロレス=父と母から離れることでしかない。最後にでてくるケリーの子だくさん一族の写真に救われる。
懐かしいアイアンクロー
伝説のプロレスラー家族の実話を基に描いたヒューマンドマ。鉄の爪と言われたアイアンクローは当時の日本でもかなり流行したので懐かしく感じました。兄弟が不慮の事故で次々に亡くなるという悲劇はまさに呪われた家族であり、主人公の心中を察すると痛たまれない気持ちになりました。
2024-67
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