「傑作になりかけた凡作」スオミの話をしよう よっちゃんイカさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作になりかけた凡作
正直言ってここのレビュー欄で書かれてるほどあっけらかんのクソ映画というわけではない。やはり三谷さんが書くだけあってそれなりの質は保証されている。
元々三谷さんのコメディは抱腹絶倒というわけではなく少しクスッと笑えるコメディという印象だったのでそういった点で本作をつまらないと評価している人がいるならばそれはお門違いだ。CoCo壱に行ってインディアンカレーが出てこないと言っているようなものだと思う。
ただ、その上で言うとするならば自分はこの作品の結末に対して非常に疑問を覚える。スオミが5人の夫を前に相対したとき、5人の夫に対して違う自分を演じていた、そのペルソナの仮面が剥がされる時、本当の自分とは何かそういうものに対する答えまではいかなくても哲学的な苦悩が見られるのではないかと非常にワクワクした。
しかしこの映画を見る限りそういったものは長澤まさみさんのあのサバサバした演技で有耶無耶にされてしまったような印象を受ける。最後の結末もこの事件を経てスオミは自立するのかと思いきや6人目の夫を最後に見つけてしまうし。もしかしたら三谷さんなりにこういう生き方もいいよねと肯定するのが目的の可能性もあるが、もしそうならばそもそもスオミが狂言誘拐を仕掛ける動機が弱くなってしまう気がする。5人の夫を前にして本当の私は何者かというところがもっと掘り下げられれば傑作になる可能性もあったと思うのだが。
役者さんの中では長澤まさみさんの魅力が存分に出ていることは言うに及ばないが、瀬戸康史さんが出色の出来。リアクターとしても狂言回しとしても程の良い名演で素晴らしかった。誘拐の電話を受けている寒川を見る時の「こいつまじか」という表情なんかでしゃばり過ぎずサラッと表現していて素晴らしい。
又、5人の夫はそれぞれ違うものを求めてそれぞれに性格的な問題点があるわけだが、中でも松坂桃李さんの十勝は金をばら撒く気前の良さの裏にそうでもしないと人から認めてもらえない虚しさが滲み出て特に印象に残る。彌十郎さんはかなり演劇的な芝居で少し浮いていた印象。最も三谷さんも演劇を作るつもりでこの映画を撮ったとおっしゃっていたのでその弊害なのだろうか?
狂言誘拐の犯人は正直途中で丸わかり状態になるが、それでも犯行の細かい手順だったりとかボストンバックからアタッシュケースに変わった理由とか細かい伏線が面白かった。