劇場公開日 2024年9月13日

「馬鹿な男たちのもとを去って「ヘルシンキ」へ。」スオミの話をしよう ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0馬鹿な男たちのもとを去って「ヘルシンキ」へ。

2024年9月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

長澤まさみの七変化が面白い。同じものでも見る人によって違うように見えることはよくあるが、それは人によって見方が違うからに過ぎない。しかしこの映画のスオミは本当に人によって性格を変えてしまって、全くの別人と言っていい。それは相手の男に気に入られようと、それらしい好みの女を演じるからである。言ってしまえばそれだけのありふれた話である。しかし三谷幸喜の手にかかったら、そんな平凡な題材が飛び切りのコメディに仕上がってしまう。彼のコメディのスタイルは「悪ふざけ」である。例えばスオミが急に中国人になって大笑いしてしまう。それを真に受けている刑事の間抜けさもおかしい。スオミのパートナーの薊もスオミに負けじと変身して、その意外性が笑いを誘う。現実にはあり得ないことばかりが起こるが、それを受け入れてしまうと快感になる。「悪ふざけ」ばかりやっているように見えるが、人間の弱点と言うか本質的な滑稽さみたいなものが表現されているから共感できる。常識の枠を軽々と破ってしまうのが、三谷ワールドの魅力である。
長澤まさみのキャラクターの演じ分けみたいなものに注目しがちであるが、相手役の男たちも相当なものである。詩人なのに金にやたら執着する坂東弥十郎、神経質過ぎて器の小さい刑事の西島秀俊、教え子の中学生と結婚してしまうツンデレ好きの元教師遠藤憲一など他の作品では見たことのない役者の姿が見られる。男たちが、自分が一番スオミに愛されていたと張り合う姿は馬鹿丸出しだが、憎めなくて共感できる。それは自分にもそういう部分があると感じるからかもしれない。
三谷自身が「演劇的な映画」と言っているように、大富豪の邸宅で繰り広げられる男たちのやり取りは、舞台を見ているようで惹き付けられる。すべての役者の力量がとても感じられる作品でした。

ガバチョ