劇場公開日 2024年9月20日

「丁寧な作品」ぼくが生きてる、ふたつの世界 コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0丁寧な作品

2024年9月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

とても丁寧な作品でした。
両親が耳が聞こえず、健常者の息子(いわゆるコーダ)の育ち方、感じ方を順番に追う構成。
原作がエッセイなのか、実体験ベースの話らしい。

聞こえる自分(主人公)が、母に言葉を手話で「通訳」して伝えることが誇らしく嬉しい幼少時代はいいとして。
小学校の同級生からの「お前の母ちゃん変」から始まり、多動性気味で空気を読まないお調子者の同級生が手話をからかう。
近所のババアは「障害者の息子はストレスを発散するため、近所で起きたいたずらは主人公のせい」とやってないのに決めつけ「一緒に謝ってあげる」と無理矢理腕を引っ張る差別っぷり。
元ヤクザな暴力男で博徒の祖父の介護と新興宗教にハマった祖母、聾唖な両親のケアで、次第に家族の通訳や介護が「当たり前」になることが重く感じ、自分だけが不幸で搾取されている気になっていく。
忙しさに勉強が追いつかず高校受験に失敗し、大学進学はならず、パチンコカスとして生きる。
不景気による父のリストラで働かなければならなくなり、田舎でくすぶるよりいっそ東京に行けと背中を押した父の言葉に上京。

背景に描かれる流行が「あったあった」と思えるものが多く。
小学校低学年のときにファミコンってことは、私より下の世代(後でググったら、著者は1983年生まれ)だから、結構かぶっていました。
夜逃げしちゃう編集長がユースケ・サンタマリアで、うさん臭さが何人か知ってる人そっくりでよかったw

反抗期~思春期には「違う」って見られるだけでつらいのに、母の内職などからわかる「ヤングケア前提で貧乏な環境」はキツいよね、と頷きながら観る。
『コーダ あいのうた』より、メタメタに悪い環境にある子どももいることを念頭に、勝手に思い込んだ「普通」を基に差別しちゃいかん!と改めて思わせてくれました。
その環境だって、作中お父さん役の人のセリフ「どこの家にもそれぞれ悩みがあるよ、たぶんね」という一言に集約されていたように、特殊な事例ではなく、どこにでもあることのような気がします。
程度の差はありますが、たとえば「子どもは親を手伝って当たり前」みたいな、親ではなく祖父母や親戚、周辺住民の同調圧力による、子どもの心の圧迫とか、「娘は家族の料理を作って当然」みたいなクソ親だっているじゃないですか。
そんな勝手な「当たり前」「価値観」を押し付けることで子どもを傷つけ、もめて。
それは子どものせいではなく、主に周りの理解のなさの方が問題じゃないかとも。
それだけの説得力ある描写の積み重ねが、映画としてよかったです。

……ただ原作者がどんな人かは知らないし、同一視したら危険かも。

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コージィ日本犬