「「落下の解剖学」よりこちらの方が好き。」12日の殺人 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
「落下の解剖学」よりこちらの方が好き。
フランス、グルノーブルの街なかと郊外を舞台とした物語。劇中、車を走らせるシーンで度々雪山が映る。ああ、あの山々の何処かに「落下の解剖学」の山荘がある(という設定)なんだなあと思いながら観ていた。
ほぼ同時期に制作され、同じ地区を舞台とし、ともに犯罪をテーマにした両作品だが全世界での興行という点ではかなり差がついてしまったようだ。カンヌでパルムドール、米アカデミーでも脚本賞をとった「落下の解剖学」が華々しい成功をおさめたといえる一方で、本作品は自国のセザール賞は独占したようだがやはり地味な感じは拭えない(セザール賞はかって「アメリ」とかが受賞しているので私自身は結構信用している)
「落下の解剖学」が印象的なキービジュアル(雪の上の死体)、派手な法廷の応酬、唯一、目撃の可能性があるのが視覚障害の少年といった道具建てに不足していないのに比べ、本作品は「12日の殺人」というタイトルが表しているようにナンバリングされる数多くの殺人の中の一つの捜査を丹念に追いかけるのみの筋書きで地味とといえば地味である。
でも映像もそうだしセリフ廻しもそうだが全体のトーンのダウナー系な感覚は嫌いじゃない。物語としては「ツインピークス」に似て謎が謎を呼び限りなく広がっていく感じが好きだなあ。解決しないことは既に冒頭で明らかにされているし。
カンヌに話を戻すけどやはり「落下の解剖学」はサンドラ・ヒューラーが出演していたのが大きく映画の評価に影響したんでしょうね。カンヌは最近、ちょっと役者の演技に甘いところがあるような気がする。逆に「Perfect days」には男優賞しか与えなかったところがカンヌの見識っていうものだとも思うけど。
今作と比べると「落下の解剖学」がいかにケレン味に溢れ、結末を観客に委ねているか解りますね。未解決・・遺族には申し訳ないですが、仕方ない・・と思ってしまいます。