「孤独な3人が“家庭”によって救われる ハートフルストーリー」ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ asukari-yさんの映画レビュー(感想・評価)
孤独な3人が“家庭”によって救われる ハートフルストーリー
のっけからレコードの針が盤を引っ掻く音と色褪せた画が出てきて、時代を感じさせる。上手く時代を作り出して引き込まれていく画と音の演出。いい感じに始まって映画に入っていくんですが、主演のポール・ジアマッティ扮する堅物先生が入った瞬間、
これは良き映画かもしれないと感じました。
時は1970年のクリスマスホリディ。ルールに厳格で融通が一切利かず、特異な体臭と古めかしい指導によって生徒から嫌われている独身の教師。成績良好だが、再婚した母がこの時期にハネムーンを予定したがために家に帰れず寮生活を強いられる青年。女手一つで育てた息子が戦死し、一人喪中の寮母。この3人が学校の寮でクリスマスを送るというストーリーの本作・・・
懐かしさと温かさを兼ね備えた名作であると感じました。
寮に残ることになった3人、誰しもが孤独と、それに付随する悩み、それも生い立ちという歴史からくる深い悩みを抱えているんです。それを隠すために、反動ともいえるような態度を取って、結局まわりから嫌われているのかなと。しかし、このホリディで3人はいつしか“家庭的”な生活を取っていくんです。自分の主張をぶつけ、時に深い傷をえぐってしまい、そのたび相手を理解していく。それが激しい論調ではなく静かに、しかし強く伝えるような感じなのがまたいい。観やすいし、なにより深く考えさせられる。相手を理解するとはこういうことなのかとも思ってしまう、大人のビターな感じがいいんです。しかしただぶつかるだけではない。そこには、ほんわかなコメディチックな緩さがあり、いいテイストになっているんです。そして、この“家庭的”な、“家族”のような雰囲気こそ、孤独を癒す最大の薬ではないかと、この映画は問いかけているように思うんです。そう、
“家庭”“家族”の存在の偉大さを、伝えようとしているのではないか。
また、堅物先生が「古代歴史」の先生であることも面白さを引き立てる。個人的に歴史が好きなんですが、彼が語る歴史の意義はとても心に残る。
歴史は過去を語り、そして今を説明する。
歴史によって自分の人生が決まることはない
なかなか深い!物事には過程があり、今の結果があるが、それが未来を縛ることもないということではないかと自分は思っています。
本作を監督したアレクサンダー・ペインは、ハートフルな作品を作るのが巧いと聞いていましたが、その噂通りであったと思います。また堅物教師のポール・ジアマッティ、寮母のディバイン・ジョイ・ランドルフの演技達者は見事ながら、残された青年役のドミニク・セッサの演技は魅力。若人ながらかなり魅力。この3人が魅せたことがより本作の評価を高くした理由です。
“孤独”を“家庭”が救う本作。この魅力、人付き合いが難しくなった現代にこそ、必要なんじゃないかと思います。そういう意味でも、本作は名作です。