フレディ・マーキュリー The Show Must Go On : 映画評論・批評
2024年2月27日更新
2024年2月16日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、 池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかにてロードショー
フレディ・マーキュリーの生涯を立体的に紐解くドキュメンタリー作品
昨年末の第74回紅白歌合戦出場、2月のクイーン+アダム・ランバートの来日ドーム5公演、1981年のライブ映画「QUEEN ROCK MONTREAL」のIMAXでの6日間限定上映と、英ロックバンド、クイーンの話題が事欠かない。そんな中、故フレディ・マーキュリー(91年没)をフォーカスしたドキュメンタリー映画「フレディ・マーキュリー The Show Must Go On」が2月16日に公開された。全国32館規模で始まった上映は、映画を鑑賞した人のSNS等で評判が拡散され上映期間延長、上映館拡大と音楽ドキュメンタリー映画としては異例のヒット作品となっている。果たして何がこの映画を惹き付けているのだろうか?
本作では在りし日のフレディ・マーキュリーのインタビュー映像が随所に挿入されている。MVやライブ映像等で見慣れたフレディの、素の表情を垣間見ることが出来るのだ。特筆すべきは、稀代の名曲「ボヘミアン・ラプソディ」について語るシーン。5つのパートで構成されている交響曲のようなあの楽曲、元々は3つの曲を書くつもりが完成できず、最後はヤケクソでひとつの曲にまとめたというエピソードは知的好奇心を刺激してくれ、クイーン・ファンならずとも興味深い。
さらに同曲のオペラ・パートの歌詞に登場する“Beelzebub(ベルゼベブ)”はサタニズム(悪魔主義)の影響か?という問いに「単に言葉の響きが好きなだけ!」と茶目っ気たっぷりにはぐらかす表情は、ステージで見せる完全主義者のフレディと真逆で、そのギャップが楽しめる。
監督のフィンレイ・ボールドは98年生まれ、本作を完成させた時点で25歳。生前のフレディを体験していない世代だ。それゆえフレディ・マーキュリーを客観的かつ立体的に捉えている。本人やメンバーが語る内側からのコメントに加え、フレディの実妹やデビュー直後から身近で関わってきた4人の関係者が、外側からみたフレディを証言していく。アート・ディレクションやマーケティング・ディレクターとしての側面、発声方法、創作スタイル、プライベートの表情、ライブエイドでみせた圧巻のパフォーマンス、生涯のパートナーだったメアリー・オースティンや、LGBT的指向についてと様々な角度からの証言が集められフレディを浮き彫りにしていく。
特にエイズ罹患から亡くなるまでのくだりは涙なしでは見られない。それぞれのコメント内容に合わせクイーンのアーカイブ映像や写真をテンポ良く繋いでいく監督の編集手腕は良質なDJミックスのよう。上映時間の49分はちょうど音楽アルバム1枚分に相当する。まさにアルバム1枚を聴き終えた充実感を楽しめる作品となっている。
(石角隆行)