劇場公開日 2024年5月24日

「気取った映画通には理解不能な「あぶない刑事」38年続く人気の秘密」帰ってきた あぶない刑事 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0気取った映画通には理解不能な「あぶない刑事」38年続く人気の秘密

2024年5月28日
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気取った映画通には理解不能な「あぶない刑事」38年続く人気の秘密

 このあと作品レビューはコメント欄にアップしましたので、ご参照ください。

 バブル景気の中で始まったバディーものの刑事ドラマ「あぶない刑事(デカ)」シリーズの最新作「帰ってきたあぶない刑事」が24日公開されました。これまでにテレビドラマ2シリーズ、ドラマ特番1本、映画7作が公開されました。ドラマの最高視聴率はで22.9%を記録したという、まさに国民的な刑事ドラマシリーズです。

 ドラマの第1回放送から38年、一貫して主演する舘ひろしさんと柴田恭兵さんはともに古希を過ぎましたが、変わらぬ体形で元気なアクションを披露、上映館には多くの中高年ファンが足を運んでいるようです。半世紀近く、時代の波を乗り越えてきた人気の秘密は、いったいどこにあるのか、大衆娯楽映画を小馬鹿に見下す、気取った映画通の人にもご理解いただけるように考査してみました。

●まずはおさらいから。
 神奈川県警横浜港署の刑事、舘さん演じるタカこと鷹山敏樹と、柴田さんのユージこと大下勇次のコンビが、少年課の同僚、真山薫(浅野さん)、後輩刑事の町田透(仲村さん)とともに、横浜で起きる凶悪事件を解決する刑事もの。スタイルがよく、おしゃれなタカとユージの軽快なセリフと派手なアクションが見せ場となり、先輩に頭が上がらない透、型破りな薫と、コミカルなキャラクターを交えたユーモアたっぷりの掛け合いがお約束となっています。

 元々は日本テレビ系のドラマ。1986年10月に放送が始まるや、高い視聴率を記録。半年の予定が1年に延長されます。ドラマ終了から3カ月後には「あぶない刑事」が正月映画として公開され、興行収入26億円のヒットとなりました。88年7月~89年4月にかけて、映画「またまたあぶない刑事」、ドラマ「もっとあぶない刑事」、映画「もっともあぶない刑事」と立て続けに作られたのです。

 ドラマの刑事ものはテレビ草創期から人気番組だったが、80年代半ばには陰りが見えていた。新機軸を求めた日テレのプロデューサーらが制作会社「セントラル・アーツ」に話を持ち込みます。映画「野獣死すべし」「ビー・バップ・ハイスクール」など斬新なアクションものをヒットさせていた「セントラル・アーツ」は、得意なハードボイルドを活かした新しいバディーものをテレビで作ろうとして誕生したのが「あぶない刑事」シリーズでした。

 主演に抜てきされた舘さんと柴田さんは当時、人気が出始めた30代。舘さんはバイクチーム「クールス」から芸能界入りし、「西部警察」などの硬派なイメージが定着していました。一方、柴田さんはミュージカル劇団「東京キッドブラザース」からテレビに進出、軽快さが持ち味。バディーものは正反対の2人の衝突が定番だが、タイプは違うが共に二枚目です。

●バブル時代の潮目に乗った
 ドラマの第1シリーズから参加する脚本家の大川俊道は、「あぶ刑事」は「架空の横浜を舞台としたファンタジー。面白いと思ったことを、全部やらせてくれた」と語ります。
 映画界も世間も今よりおおらかでした。ドラマでは毎回、公道での派手なカーチェイスで車が横転し、町中でも派手に銃を撃ち合う。物騒な撮影もおとがめなし。今ならとても許されません。現代では当たり前の、ドラマの映画化も、「あぶ刑事」がハシリなのです。ドラマのエンドクレジットの背景となった横浜の赤レンガ倉庫は有名になって落書きが相次ぎ、保護運動に結びつく社会現象ともなりました。

 シリーズ初期から関わってきた近藤正岳プロデューサーは、当時の人気を「時代の潮目に乗った」と見ています。80年代後半、日本はバブル景気に浮かれていました。登場人物は肩パッドの入ったブランドものの服に身を包み、パトカーも高級車の日産レパード。現実にはあり得ないカーチェイスや銃の乱射も自然に受け止められました。「日本が一番派手で、でたらめで面白かったころ。タカとユージは拳銃の弾もたくさん使ったけど、検挙率も高い。結果が出れば大目に見てよ、という時代の空気を体現していたと思う」と近藤プロデューサー。

 ドラマ第2シリーズの視聴率は20%を超えたものの、映画の興行収入は「またまた」が18億円、「もっとも」は12億円と伸びず、シリーズはいったん休止します。

●組織のしょっぱい現実受け
 96年、ドラマ放送開始から10年の節目に、映画「あぶない刑事リターンズ」として復活。しかし興収は9.1億円と伸び悩みます。98年の「あぶない刑事フォーエヴァー」では、前半をテレビのスペシャル版、後半を映画というメディアミックスを試みました。こちらは、ドラマの視聴率は25.7%と好調だったものの、映画の興収は8.8億円。2005年に再度復活した映画「まだまだあぶない刑事」は8.1億円とジリ貧でした。

 すでにバブルははじけ、時代は経済停滞の暗い影が差していました。ドラマ「踊る大捜査線」が大ヒットしたのは97年。ここでは警察官も公務員として描かれ、拳銃を持ち出すのにも許可がいります。主演の刑事・青島は、組織の力学の中で苦悩したのです。そのリアリティーが受け、98年に公開された映画版は配給収入53億円と、この年の邦画トップに。近藤プロデューサーは「『踊る』はサラリーマンが組織の中でどう動くかという、しょっぱい現実を描いていた。求められたのは、西部劇的で沸点が高い代わりにリアリティーがない『あぶ刑事』ではなかった」。
 90年代まではまだビデオやDVDの販売で製作費回収ができたが、2次利用市場はこの後急速に縮小。「あぶ刑事」の命脈もつきたかに見えたのです。

●こういう年の取り方をしたい
 ところが、時代は「あぶ刑事」を見捨てていませんでした。「まだまだ」の幕切れでタカとユージの生死が不明だったため、製作元「セントラル・アーツ」の黒沢プロデューサーが「決着をつけよう」と16年、30年記念作として映画「さらばあぶない刑事」を公開。これが興収16.1億円と“想定外”にヒット。「“閉店セール”人気だけではなく、昭和への憧れもあったのでは」と近藤プロデューサーは手応えを語ります。当然続編が企画されましたが、黒沢プロデューサーの急逝やコロナ禍を経て、ようやく「あぶ刑事」が「帰ってきた」のです。

 「帰ってきた」は、ユージとタカがニュージーランドから横浜に戻った場面で始まります。警察を定年退職後、海の向こうで探偵をしていましたが、トラブルを起こして帰国。横浜で探偵事務所を開くのです。横浜では、中国系マフィアと手を組んだ悪徳業者がカジノ開設をもくろんでいました。一方、2人の元に若い女性から母親捜しの依頼が舞い込んで、どうやら彼女はタカかユージの娘らしい…というお話しです。

 舘さん、柴田さんとも70代。今作でも脚本を担当した大川は「探偵になった2人をどう“刑事”に戻すか悩んだ」といいますが、結局「『あぶ刑事』だからいいんだ、映画は自由と吹っ切った」といいます。タカもユージも口々に「年を取った」とグチりながらも、走り、格闘し、バイクを乗り回し、カーアクションに挑むのです。派手なドンパチや車の転倒も、いつも通り盛りだくさん。往年と全く変わらないシーンが続くところが凄いのです。

 近藤プロデューサーは「ユージもタカも、速く走れなくなったし息も切れる。それでもその年代に応じたかっこよさがある。若い人が見ても、こういう年の取り方をしたいと思うのではないか」。脚本の大川も「町中でのドンパチなんかあり得ないけれど、観客は正しさだけを求めているわけじゃない。痛快でストレスを発散させる、“これぞ映画”があっていい」。

 出演者もスタッフも、そしてファンも一緒に時代の空気を吸い、年を重ねてきた。昭和、平成と時代の荒波を乗り越えてきた長寿シリーズ、令和の世にどう受け止められるのでしょうか。

●気取った映画通の人へ
 ドキュメンタリーやアート系の作品しか見ないような高尚な映画趣味を貫いている、そんな気取った映画通の人にしてみれば、この「あぶ刑事」や「西部警察」となど石原プロ関連の刑事ドラマなんて、リアルティのかけらもない嘘っぽい作りものにしか見えないことでしょう。けれども脚本の大川さんおっしゃるとおり、「観客は正しさだけを求めているわけじゃない。痛快でストレスを発散させる」ために、逆にあり得ない設定のドラマを求めるわけです。これぞ映画の醍醐味なのです。でも高尚な映画趣味にはまっていくと、なかなかこのような大衆娯楽に求められているエンターテイメントを受け入れがたくなって、拒絶していくのでしょう。でも映画の楽しみ方は人それぞれ。ご自身が楽しむ分は誰も文句は言えませんが、人の映画の楽しみ方にまでとやかく言う謂れはないと思います。 特に「あぶ刑事」シリーズは、昭和、平成と時代の荒波を乗り越えてきた長寿シリーズ。単に娯楽映画という範疇を超えて、多くの中高年ファンにとって、かけがえのない青春の思い出の一部に同化しているのです。それをくだらないと横車に説教するのは、まことに野暮なことだと思います。

 そして大衆娯楽映画が映画産業を支えてきたことも無視できません。大衆娯楽映画でも興行的に失敗する作品も多々ありますが、興業で上映館の経営をささえているのは大衆娯楽映画のヒット作でしょう。なかなかドキュメンタリーやアート系の作品で、大きな数字を作るのは困難です。「あぶ刑事」劇場版の前作は16億円も稼ぎました。今作も10億超えは確実でしょう。
 高尚な映画趣味が続けられるのも、大衆娯楽映画が稼いでくれるおかげなのだから、その存在を否定できないと思います。
 ぜひ「あぶ刑事」をご覧になって、理屈を捨ててエンジョイしてほしいものですね。

流山の小地蔵
流山の小地蔵さんのコメント
2024年6月10日

●解説
 定年後、海外で暮らしていた夕カとユージが、横浜で探偵事務所を開いて、最初の依頼人となったのが彩夏でしたが、彼女がひよっとしたらどちらかの実の娘かもしれないという話になって、これまでのシリーズのようなふたりの規格外のアクションだけでなく、彩夏に対して、父親らしさを競う合うタカとユージの滑稽な努力ぶりという人情噺も追加されました。港町、謎の美女、カジノ構想とお膳立てはそろい、レギュラー陣の浅野温子=も仲村トオルも楽しげです。
 タカとユージのおしゃれでユーモラスなバディぶりも健在。アクションもこなす舘は現在74歳、柴田は72歳。サービス精神には頭が下がります。
 今回もスタントマン抜きで、危険なアクションシーンに挑んだそうです。その点の職人気質というか、役者バカなところは、ジャッキー・チェン主演で現在公開中の『ライドオン』に通じるものがあります。そのジャッキー・チェンも今年70歳を迎えます。ジャッキーよりも年上なふたりが、年齢を感じさせないアクションを披露しているところに本作の意義があります。まさに実年世代の希望の星といっていいでしょう。
 とはいえ、年を取った2人が頑張って過去を再現しているだけではありません。親と子ほどに年の離れた彩夏を相手に、彼らはもはや恋人気取りでなく、父親気取り。格好良さが身上のダンディズムが、年齢にふさわしい大人のダンディズムに変容し、緩やかな三角関係が爽やかでさえあります。
 まぁ、心のダンディズムぐらいだったら、自分にも手が届くのかもしれません。そんな淡い夢を見させてくれるのが映画なのです!

流山の小地蔵
流山の小地蔵さんのコメント
2024年6月10日

(ストーリーのつづき)
 一方、横浜では巨大ベンチャー企業「ハイドニック」社長の海堂 巧(早乙女太一)が「横浜経済の活性化」を掲げて、香港企業と連携した強力なカジノ誘致を行なっており、それに関連した殺人事件が複数発生していました。
 実は、海堂の父親は以前タカが射殺した暴力団・銀星総業二代目会長の前尾源次郎(柄本明)でした。そして海堂は、劉飛龍と裏でつながっていました。また、劉の近くには「ビジネスパートナー」とされる謎の女性、ステラ・リーがいたのです。
 町田は連続殺人事件の裏にカジノ誘致が存在することに気づきますが、海堂は神奈川県警の上層部や地元政治家と裏で癒着しており、町田の同期で神奈川県警刑事部長の八木沼大輝(杉本哲太)は事件の捜査から手を引くよう町田に圧力をかけるのです。
 そして、海堂は日本で自社が運営する武装警備会社を認可させるため、桜木町駅前の商業ビル「コレットマーレ」を爆破する偽旗テロを計画していました。母の「夏子」を探して海堂たちの爆弾倉庫に迷い込んでしまった彩夏は、海堂一味に捕まってしまいます。そこにタカ&ユージが乗り込んでくるのでした。
 八木沼たちの圧力を振り切った町田は、県警上層部からタカ&ユージの嘱託契約を取り付け、さらにタカ&ユージのかつての愛車であるレパードの覆面パトカーと銃器類を「1日限定」で特別に供与するのです。こうしてタカ&ユージの“あぶない刑事”は完全復活し、そして横浜港署捜査課のメンバーたちも加わって、海堂一味との対決の火蓋が切って落とされたでした。

流山の小地蔵
流山の小地蔵さんのコメント
2024年6月10日

●ストーリー
 神奈川県警を定年退職後、ニュージーランドで探偵業を営んでいた元刑事コンビの「タカ」こと鷹山敏樹(演:舘ひろし)と、「ユージ」こと大下勇次(演:柴田恭兵)は現地の警察と一悶着起こしてしまい、探偵の免許は剥奪され“出禁”となり、8年ぶりに横浜に戻ってくるのです。2人を追いかけてニュージーランドに行った真山薫(浅野温子)はどうやら行方不明。
 「結局、ここに戻ってきたな」「8年か、あっという間だったな」横浜港の埠頭で横浜の風景を懐かしむ鷹山と大下でした。
 その夜、横浜で香港在住の日本人弁護士が何者かに殺される。事件に何かひっかかりを感じた鷹山は、埠頭で見かけたタカ&ユージと旧知の華僑系実業家・劉飛龍(リウ・フェイロン:岸谷五朗)を訪ねます。フェイロンにはステラ・リー(吉瀬美智子)というビジネス・パートナーがいました。ステラが昔の恋人に似ていることがかつての恋人に似ていることが気になります。
 その頃横浜でふたりが開業した「T&Y探偵事務所」の元に、永峰彩夏(土屋太鳳)が依頼人として現れます。横浜での初仕事に喜ぶ大下。彩夏の依頼は、自分を産んで消えた母親の夏子を探してほしい、という依頼でした。彩夏の母親は、横浜で名の知れた歌手「夏子」でしたが、彼女は香港に渡航し、20年ほど前から消息不明となっていたのです。
 実は、夏子は鷹山と大下にとって旧知の女性。もしかすると彩夏は自分たちの「……娘か?」という疑惑か浮上します。
 まずは夏子の消息を調ぺるため、タカとユージは刑事時代の後輩で現在は横浜港署捜査課長の町田徹(演:仲村トオル)もとへ向かい、「夏子」探しの協力を依頼します。しかし、タカ&ユージの現役時代の「あぶない」捜査を熟知する町田は、二人が“あぷない”調査をしないか監視するため、部下の早瀬梨花(演:西野七瀬)に2人の尾行を命じるのです。

流山の小地蔵
流山の小地蔵さんのコメント
2024年6月10日

映画『帰ってきたあぶない刑事』作品レビュー

 還暦を過ぎて7年も経つと、自分もいい風に年を取りたいと思うことが多くなってきました。新聞に実年の有名人も度々挙げられますが、その最上位の、とても手が届かないところに本作の主人公の2人がいるはずです。
 1986年にテレビ放送が始まった「あぶない刑事」シリーズ。本作は、舘ひろしと柴田恭兵が演じる夕カとユージの刑事コンビの活躍を描き、映画版は2016年の「さらばあぶない刑事」以来の8作目。
 今作では、過去のテレビシリーズで6エピソードの演出・脚本を担当した原隆仁の実子である原廣利が監督を務めています。

流山の小地蔵