劇場公開日 2024年2月9日

「映画の奇跡」瞳をとじて サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5映画の奇跡

2024年2月13日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

難しい

幸せ

原題:Cerrar los ojos(仏語)には、思わず目を瞑る、見て見ぬふりをするといった意味合いがあり、邦題である「瞳をとじて」は〈とじてください〉の指示語ではなく、〈とじてしまう〉と解釈するのが正しいと思う。このタイトル、エンドロールの直前まで何が何だか。だがそのシーンを見た途端、普遍的なテーマでありながら監督が31年振りに長編のメガホンを取ったことが瞬時に理解できるほど、とんでもなく綺麗で、その反動から涙が出てしまった。ビクトル・エリセ作品初挑戦だったから身構えていたけど、これはやられた...。

169分とかなりの長尺だけど、退屈ゼロ。こんなシンプルな人生ロードムービーなのに、巨匠の凄腕に永遠と入り込んじゃう。主人公・ミゲルの監督映画と本編の両方でじっくりと描かれる、喪失と再会。たった数日の物語。それでも、ミゲルにとっては一生分の物語。彼のような経験をすることは中々無いだろうけど、ふと自分が生きていることに価値を見出すことって、誰しもあると思う。後半からのミゲルの表情はまるで少年のようで、自分にしか出来ないと行動する姿はカッコよすぎてハッとさせられた。

何万とあるコマのどのコマも、部屋に飾りたくなるほど魅惑的。タバコを吸うシーンや、スープをスプーンで少しずつ飲むシーンだって。流石としか言えない。新作なのに往年の名作を見ているよう。劇中でも昨今の映画事情について、フィルムについて言及される場面があるように、監督自身31年間、カメラを持たなかった間に映画について思うところが沢山あったのだろう。本作のノスタルジックな雰囲気には、古臭さは感じず、フィルム時代の良さを継承したまま、現代の映画にも影響を与えるような目新しさがあった。だから、惹かれちゃうんだろうな...。

語りたいところは山ほどあるんだけど、中でも好きなのは、いくつかあるミゲルらが歌を口ずさむシーン。ギターと共に海辺で、古屋の外のベンチで、そして映画の中で。自分の映画史に残り続けるだろう、かつてない名シーンたち。ここまで食らってしまうとは思ってもみなかった。映画ってなんていいものなんだ。映画は奇跡を起こす。彼らにその奇跡が降りかかったように、私にもまた映画という魔法にかかった。ありがとう、また撮ってくれて。

サプライズ